避難所と人目

 何らかの理由で避難所生活をしなければならなくなった場合、いろいろと困ることが起きてきますが、その中でも他人の目については対策を講じておく必要があります。
 普段の生活では、例えば家にいたり、自分の部屋に入ったりすれば他人の視線を防ぐことができるのですが、避難所ではそういうわけにいきません。
 24時間常に人目にさらされる生活を送ることになりますので、それが嫌な場合にはしっかりとした対策を用意しておきましょう。
 具体的には、安いものでいいので自立型のテントを一張準備しておきましょう。それがあるのとないのでは、自分の中の安心感がまったく異なります。
 テントがあれば、最悪避難所以外でも安全な場所があれば、そこで張って生活する場を作ることができます。
 行政が避難所に届けてくれる目隠し用の壁は、数が少ない上に視線を遮るのには中途半端な高さであまりあてにはなりませんので、当座の安全な場所として、自立型テントを非常用持ち出し袋に入れておくことをお勧めします。

暗闇を体験する

 日本に住んでいると、案外と暗闇に出会うことが少ないものです。 
 夜の街を歩いていても街灯はありますし、家の中でもどこでも、ほとんどの場合きちんと灯りがあって、暗闇があるという状態自体が珍しいかもしれません。
 災害時には多くの場合電気の供給が止まってしまうため、本当に真っ暗な中で生活をすることになりますが、普段灯りのある生活をしている人にとって、灯りがないというのはものすごい恐怖になります。
 暗闇というのは、人間にとって本質的な恐怖を感じるもので、それを排除するために現在のような明るさを手に入れたのかなと思っていますが、暗闇を知らないというのも問題があると思います。
 そこで、当研究所の防災キャンプには暗闇体験という項目を作り、実際に暗い建物の中を歩いてみるということをやってみます。
 もちろん完全に真っ暗なわけではなく、非常灯はついていますし、肝試しではないので、懐中電灯や持ち歩ける灯りは持って歩きます。
 それでも、普段とは異なる環境になるためか、怖がったり、友達同士で団子状になったりして、暗いところを歩くというのがどういうことなのかについていろいろと考えるようです。
 災害本番ではほとんど灯りのない状態になっているとは思いますが、そんなときでもこういった暗さを覚えておけば、パニックになることは少ないのかなと思います。
 街中で完全に灯りのないところを歩くのは危険が伴いますが、例えば家族などでキャンプ場などに出かけた時、夜のキャンプ場を歩いてみると、普段とは違った体験ができると思いますよ。

遊びと防災

 防災活動をしていくうえで、結構大変なのが防災に興味を持ってもらうことです。
 そのため、防災活動の普及や推進をしているところはさまざまな仕掛けを作っているわけですが、その中に遊びがあります。
 身体を動かしたり、頭を使ったり、面白がりながら楽しんで体験した結果が、気が付いたら災害時に役に立っているということになるので、有名人の講演会や座学よりも効果的なのではないかと、筆者は思っています。
 先日防災かくれんぼのお手伝いをしましたが、ここでも参加している人たちはとても楽しそうに遊びながら、いざというときの行動についてしっかりと確認していました。
 また、当研究所が子供向けにやっている研修会でも、かなり遊びを取り込んで、できる限り興味を持ってもらえるようなものにしようと試行錯誤しています。
 防災を中心に据えなくても、さまざまなところで体を動かして遊ぶこと、予測をすることというのは非常に大切な体験であり、そういった経験が、いざというときに生き残れるかどうかの差になっていくのではないかと感じています。
 季節もよくなってきました。せっかくなので外におでかけしてしっかりと、身体や頭を使って遊んでみてください。
 子供だけでなく、大人にも大切なことだと思いますよ。

【活動報告】戸田小テラコヤ海風遊舎様のイベントに協力しました

 2023年3月29日に益田市の戸田小学校において、戸田小テラコヤ海風遊舎様のイベント「防災かくれんぼ」が開催され、その中の防災パートの講師をしました。
 防災かくれんぼは日本かくれんぼ協会様が開催される防災とかくれんぼを一緒にしたもので、地震や水害での避難行動をかくれんぼしながら学べるという非常に面白いイベントでした。
 当日は当研究所が戸田小学校のある小野地区全体の被害想定をざっくりと話した後、地震では落下物から頭を守るためにかごや座布団で頭を隠しながらのかくれんぼ、水害では水中の見えない危険なものを探るソナー棒を使い、3人一組をひもで縛ってのかくれんぼを行いました。
 防災学習というとかなり堅苦しいものが多いのですが、今回のイベントのように遊びながら避難行動を身に着けることができれば、いざというときにも思い出して行動してもらえるのかなと思います。
 参加してくれた子からは「かくれんぼで隠れる場所を探すという行動と安全な場所を見つけながら避難する行動が同じだということがわかった」といった感想が出てきて、防災かくれんぼは非常に有効なのではないかと感じました。
 こういった視点で災害対策の行動が学べるというのは面白いなと思いましたので、興味のある方や内容の詳細については日本かくれんぼ協会様にぜひお問い合わせいただければと思います。
 今回お声がけいただきましたことに感謝します。

日本かくれんぼ協会(日本かくれんぼ協会のウェブサイトへ移動します)

避難の手段を考える

 避難の時には徒歩でといわれていますが、起きる災害と時期、そして場所によっては、避難の手段が変わる場合があります。
 例えば、歩いて行ける範囲に避難所がない場合には、何らかの交通手段を使用しなければそもそも避難をすることができない場合があります。
 山間部の小集落などの場合には集落そのものが危険な場合がありますが、他の場所へ避難しようとすると自家用車などを使わなければどうにもなりません。
 逆に都会地になると自家用車は使えません。徒歩でなければそもそも交通渋滞に巻き込まれて移動ができない状態になっているでしょう。
 また、来るのが予測できる台風や大雨の場合には、あらかじめ被害の出そうな時間が予測できますから、それまでに避難を完了すればよいことになります。交通機関などが通常通りに動いている状態のときに避難を行うのであれば、あらゆる手段を使うことができます。
 でも、地震のように突然発生する災害については、道路の被害や信号機の停止などによる渋滞が予測されますから、自由の利く徒歩での避難が推奨されるのです。
 いつ被害が起きるのかがある程度予測できる災害の場合には、早めの避難をするのなら悩まなくて済みますし、ぎりぎりになって避難しようとすると、避難に使うための選択肢はほぼ徒歩一択になります。
 可能であるなら、避難の手段がたくさんあるうちに避難行動を開始、完了するように避難の手段や計画を立てておきたいですね。

カサカサとボソボソ

体育館などでは思った以上に生活音がよく響く。

 避難所など人が集まっているところの夜に起きるトラブルが「音」です。
 その中でもポリ袋の「カサカサ」という音は非常に不快感を与えてしまうようで、避難所以外、例えば山小屋など多くの人が就寝している場所でトラブルになることがあります。
 非常用持ち出し袋などの防水対策としてポリ袋を使う人も多いと思いますが、できればかさかさしないタイプのポリ袋を使うことをお勧めします。
 また、たくさんの人が集まって就寝している場所では、緊張しているせいか寝ていない人のぼそぼそとした小さな話し声も気になるものです。
 アイマスクや耳栓など、周囲の光や音を押さえる道具もあるのですが、善意の人ばかりではありませんので、確実に安全が確認されていない場合には、そういったものを使うのもどうかと思います。
 対策としては、音が出ないようにすることと、人の声を気にしなくても済むような小型の自立型テントを持ち込むくらいでしょうか。
 しっかりと眠れないと、気力はどんどん失われていきます。
 あなた自身が他の人に被害を与えないように、そして周りから被害を受けないためにも、避難が必要な人は事前準備をしっかりとしておきたいですね。

防災計画は現実的ですか

 東日本大震災における大川小学校の損害賠償請求事件では原告が全面勝訴しています。このことは割と有名な話なのですが、この中で裁判所が「事前防災の予見と不備」を大きな理由にしていることはご存じですか。
 人が集まっている学校などでは、想定されうる災害についてきちんと精査し、条件変更のたびに防災計画をきちんと見直すことが必須とされています。
 詳細は裁判所の判例をご確認いただきたいのですが、筆者の解釈では、この判例の前提にあるものは、学校に限らず、人が集まる施設では起こりうる災害とその対策についてしっかりと精査したうえで可能な限り犠牲者を出さないための対策を行う必要があるということなのではないかと思っています。
 学校や病院、介護施設、保育所やこども園などでは、ほとんどの場合防災計画が作られていると思います。ただ、それはきちんとそれらがある場所の状況を反映し、的確に安全確保ができるものになっているでしょうか。
 特に介護施設などでは、筆者の知る限りでは防災計画のひな型を適当に手直ししたものが備え付けられていることが多いですし、見直しや改訂もまったくされていないものもよくあります。
 法律上は防災計画が立てられていて計画書が備え付けられているので問題がないと判断されるのですが、それで安全がきちんと確保されているでしょうか。
 防災計画を一から作れというのは結構ハードルが高いと思うのですが、これらの施設に義務付けられている避難訓練の状況や結果を防災計画書に反映させることはできると思います。
 もしあなたが防災担当をしているのであれば、今からでも遅くはありません。
 自分の担当している防災計画書を見直し、地域の災害リスクや要件をきちんと満たせているか、そして実際に安全確実にできるような計画になっているかを確認し、しっかりとした安全を確保してください。
 余談ですが、介護施設は特に地域の中では危険な場所に建てられていることが多いです。立地からすでにリスクがあるのですから、しっかりとした対策を作って実行できるかどうかを確認することをお勧めしておきます。

大川小学校津波訴訟判例文(裁判所のウェブサイトへ移動します)

基本は自宅避難です

 災害対策の考え方の普及が進んだのか、それとも新型コロナウイルス感染症などで敬遠されているのか、在宅避難の人はかなり増えているのかなという気がします。
 自治体が設定している指定避難所の収容人数を確認すればわかるのですが、もともとその地域の人間をすべて収容できるような避難所はほとんど存在しません。
 避難しないといけない状況にある人が他に選択肢のない場合に自治体の設置する指定避難所に避難するというのが考え方の根底にあるからです。
 また、物理的に避難地域の全ての人を収容できるような施設がないということもあると思います。
 ではどんな前提で避難所に避難する人が決まるのかというと、以下の図のようになります。


 まずは自宅にいることができるのかどうかがスタート。
 自宅にいられない場合に、他の家族や知り合いなど、避難しなくてもいい人たちの家などに避難できないか、また、安全な場所にある宿泊施設などに避難できないかが選択肢に上がります。
 そして、どうにもならない場合に初めて指定避難所への避難が選択されるということになります。
 過去にはなんでもかんでも避難所に避難しろという乱暴な時代もありましたが、これだけ大規模災害が続くとそんなことも言っていられないということがわかってきたようです。
 避難指示が出ても、それはあなた特定の話ではなく、その地域全体の話です。
 まずはそれが自分に当てはまるのかどうか、そして当てはまっている場合にはどこへどうやって避難するのかについて、可能な限り事前にしっかりと決めておくことをお勧めします。

作っておきたいタイムライン

当研究所のマイタイムライン研修会の風景

 台風や大雨のようなある程度予測できるはずの災害で「逃げ遅れた」ということを割とよく聞きます。
 逃げるタイミングを失ってしまったということなのですが、地震のように突然起きるわけではない災害なのに、どうして逃げるタイミングを失ってしまうのか。
 答えは簡単で、逃げる判断をする時期をきちんと決めていなかったからです。
 逃げるかどうかの判断ができないのですから、逃げられるわけはないし、また逃げるタイミングを失ってしまうのも当然です。
 最近よく耳にする「マイタイムライン」ですが、これは災害時の自分の行動計画を作るもので、いざというときにはこれに従って行動すると、少なくとも逃げ遅れることは格段に減ってくると思います。
 悩むのは行動計画を作成するときで、本番では作成しておいた行動計画に従って何も考えずに行動するようにします。
 そうすることで、その時に判断に迷うという一番時間の無駄な使い方をしなくて済むことになるのです。
 実際にマイタイムラインを作ってみると、避難が必要な人、そうでない人でかなり判断することやそのタイミングが異なってきます。
 文字どおり「自分の」災害時行動計画を作るのだということが、研修会などで作成してみるとわかると思います。
 また、タイムラインに何を書こうかと悩んでしまうことも出てくると思いますので、誰がどんなことを書いているのかを調べてみるのも参考になると思います。
 マイタイムラインはあなたの逃げ遅れや準備不足をできる限り無くすために作成するものです。
 自分の命を守る、そして生き続けることができるような計画をしっかりと考えてみてくださいね。

ペットと人

キャリーケースに素直に入ってくれることが、屋外避難が必要な時の基本になります。

 避難や避難所において、ペットという存在は無視できないものになっています。
 ペットは家族の一員と考える飼い主と、動物と人は別と考える飼い主以外の人の思いが錯綜した結果、避難や避難所におけるペットの扱いというのが難しくなっているのではないかと思います。
 ペットがいるから避難しないという話になったり、ペットと人を同列で対応するように無茶振りしたり、ペットを飼っていない人からみると「ペット様」にしか見えない状態になり、相互理解ができない状態になっているような気がします。
 ただ、ペットも生きているわけであり、その命は守るべきものですから、できる限りにおいて対応を考える必要があります。
 現実的には、できる限りペットの飼い主は自宅から避難しなくてもすむようにしておいた方がペットも人も安心ですので、まずは自宅のあり方について考えておいた方がいいでしょう。
 そして、ペットが家族だという考え方は、ペットを飼っている人以外には納得してもらえないものだということを理解しておくべきです。
 そうすると、自宅が被災した時の避難先は、避難所よりもペットを飼っている知り合いやペットホテル、獣医などいった選択肢が出てきますから、そういった人たちに受け入れの確認をしたり、どのように世話をしてもらうのかについての確認をしておくといいでしょう。
 避難所に避難するのは最終手段と考えて、まずはそれ以外の選択肢を探してみることが重要になります。特にエキゾチックアニマルと呼ばれる犬、猫以外の生き物については犬猫以上に取り扱いが難しいですから、できる限り普段飼っている環境を維持できる方法、つまり自宅が被災しない方法を考えることが重要です。
 もちろん避難所に避難した時に備えて、犬や猫の場合にはキャリーケースなどに素直に入ることだったり、むやみに鳴かないといった日ごろのしつけはしっかりとしておく必要がありますが、そうならない手段も検討しておく必要があるということです。
 ペットも人も命という存在としては同じものです。
 避難というのは命を守ることと考えれば、ペットも人も命を守るためにはどうすればいいのかを考え、検討しておく必要があると思います。