地図を使いこなす力をつける

防災マップ作りの一コマ。地図作りは地味な作業になってしまうので、飽きてしまう子どもが多い。うまく乗せられていないのが当研究所の現在の課題。

 地図を使いこなす力といっても、別に方位磁針を持ってオリエンテーリングをやってくださいという話ではありません。
 防災では、まず最初に防災マップという地図を作るところから始めます。
 危険な場所、安全なところ、役に経つものなどを区分けして色づけし、どこをどのようにすれば安全が確保できるかという作業なのですが、この地図が出来上がったらそれで終わりというケースがとても多いです。
 当研究所でも年に1回防災マップ作りをしているのですが、やはり完成して終わりになっているのが現状です。
 本当はこの地図を使って危険な場所の危険度を下げ、安全な場所は安全であることを確保し、役にたつものはきちんと使い方をマスターしておくといった作業が必要となります。
 これが本来の地図を使いこなす力ではないかと思います。
 日本損害保険協会様が主催している「ぼうさい探検隊マップコンクール」の応募用紙では、実はこの部分もきちんと記載するようになっていて、実施してできた地図をどのように地域に落とすのか、応募する際に頭を悩ましている部分でもあります。
 防災マップは作成して終わるのではなく、それをいかに地域の安全に反映させていくかという作業が、地味ですが非常に重要な内容です。
 当研究所でも地図の作成と出来上がったものを地域にどうやって波及させていくのかというところで試行錯誤しているところですが、この作業を確実に行うことが地域の安全を守る上での大きな鍵になる気がしています。

非常用持ち出し袋や備蓄品の意味

市販品の子ども用非常用持ち出し袋の中身。これだけでは足りないし、いらないものもあるかもしれません。

 非常用持ち出し袋や備蓄品はそれぞれきちんと準備しておきましょうという説明がされますが、非常用持ち出し袋や備蓄品をなぜ備えないといけないのかについて考えたことはありますか。
 それは避難や避難先、避難生活で自分が直面するであろう困り事を解決するためにあらかじめ準備しておくものだということです。
 お困り事解決袋と考えれば、中身に何を準備しなければいけないのかがわかってくると思います。
 そして、非常用持ち出し袋や備蓄品の中身はみんな違うということも理解できるのではないでしょうか。
 例えば、老眼鏡や入れ歯、杖などは必要とされる人以外には準備しなくてもいいものですし、スマートフォンや携帯電話を持たない人であれば充電池を持ち歩く必要はありません。
 井戸や貯水タンクがあって水の心配がいらなければ飲料水の優先度は下がりますし、野菜や米が確保できるのであれば備蓄食を準備する必要がないかもしれません。
 避難所に毛布や布団がふんだんにあるのであればエマージェンシーシートやエアマットは不要でしょうし、周囲に薪がふんだんにあるのであれば燃料はいらないかもしれません。
 もし災害が起きて逃げるとき、そして逃げた後、あなたが直面すると思われるさまざまな困り事を解決するためには何を用意しておいたほうがいいのかを考えて準備をしておくこと。
 それにより、初めて非常用持ち出し袋や備蓄品が意味を持ってくるということを知っておいて欲しいと思います。

避難の時にゲーム機は持って行ってはいけないの?

 ある子どもさんからこんな質問を受けました。
「避難の時に携帯ゲーム機を持って行ってはいけないのですか?」
 これについてはいろいろな考え方があると思うのですが、筆者は条件付きで持って行くべきだという考えを持っています。
 その理由ですが、避難中や避難後にはできるだけ普段の生活リズムを崩さないことが精神的な負担を減らす大切な方法です。
 もしも息抜きや楽しみとして普段から携帯ゲーム機をやっているのであれば、持って行ってやることはいいと思います。
 「条件付き」の条件は
1.電力は自力で確保すること
2.音が周辺に聞こえないようにすること
3.周辺の音や指示の声が聞こえるようにしておくこと
4.避難所の場合には、避難所の生活時間に従うこと
5.ネットワーク接続ではなく、単独で遊べる状態であること
というものです。
 これらの条件は、周囲から文句を言われそうな内容をあらかじめ避けるために設定しているものです。
 1の「電源を自力で確保」は、避難所で限られた電源を占拠してしまうと必ず他の人からの苦情がでます。蓄電池や太陽光発電システムとセットで持って歩くようにすることで避難所の電源タップを使わなければ、周囲からの苦情を減らすことができます。
 2は、やっている本人は全く気になりませんが、その音を聞かされている周囲の人間に取っては非常に不快な音になります。特に災害で神経が高ぶっているときに聞かされる電子音は、間違いなく騒動の元になります。音を消すか、どうしても聞きたいならイヤホンで繋いで周囲に音が漏れないようにしておくことが大切です。
 3は、自分の安全を確保するために必要なことです。音や声が聞こえないと、万が一の時に逃げ遅れたり、不利益を被ったりすることがあります。集中していると周りの音が聞こえなくなるかもしれませんが、それでも周囲の音を聞き取れる状態にしておいてください。2との関連で考えると、イヤホンは片耳掛けタイプのものがいいのかもしれません。
 4は当たり前のことなのですが、避難所での生活は避難所運営委員会で取り決めた時間に従わなければいけません。そのため、就寝時間が来たらそれ以降はやらないことです。また、朝も起床時間まではおとなしくしていましょう。
 最後の5は、ネットワーク接続のゲームだと、被災後の通信環境にかなり負荷をかけることになってしまうからです。また、被災した環境ではネットワークを安定して維持できる状況にもないと思います。そのため、遊ぶのであれば単独で通信環境の影響を受けないゲームにしておくことをお勧めします。
 避難所では、本当は個人が一人で遊ぶゲームよりも周囲の人と一緒に遊べるゲームの方が気が紛れることが多いですが、全ての人がそれで気が紛れるわけでもありません。
 自分の気持ちが平穏に維持できるのであれば、避難用荷物の一つに携帯ゲーム機を加えておいてもいいと思います。
 ただ、携帯ゲーム機は音や光で周囲にいやな思いをさせることも多い遊び道具ですから、周辺への配慮を忘れずにいたいものですね。

【活動報告】第4回高津小学校防災クラブを開催しました

 去る12月2日、高津小学校のクラブ活動の一つとして採用していただいた防災クラブの第4回目を行いました。
 今回は前回選んだけれどできなかった校内安全点検とビニール袋で防寒着作りの2種類の内容を同時に開催することにしてみました。

どちらを選ぶのかも楽しいひととき。今回はどちらを選んでもできるので、みんな張り切っています。

 当研究所初の講師二人体制での実施でしたが、子ども達はそれぞれに楽しんで作業をしてくれ、怪我もなく無事に終了することができました。

校内点検の一コマ。ロッカーや本棚が固定されているかどうかもチェックしてました。

 校内安全点検では、限られた時間でしたが校内を見て回り、安全な場所危険な場所の点検をして地図を作成してくれました。

集めた情報を元にして地図に落とし込んでいきます。手際よく進めていきます。
防寒着作り。試行錯誤しながら自分だけのオリジナルな防寒着を作っていく。

 防寒着作りでは、ビニール袋を利用した防寒着をそれぞれの発想で自由に作ってもらい、実際に着てみて「暖かいね」という感想をもらい、最後は記念写真をそれぞれに撮ってみました。

腕が出ないことや腕が寒いという話になって、袖をつけて服のように仕上げる人も出てきた。

 限られた時間ですが、さまざまな体験をすることによって子ども達が自分たちでもできることをたくさん見つけ、実際に行動することで子ども達も大人達も防災意識を高めていくことができるといいなと思っています。
 今回参加してくれた子ども達、そして担当の先生にお礼申し上げます。

防災マップは見えるところに貼っておこう

 あなたは防災マップを作っていますか。
 防災マップというのはハザードマップのことではありません。ハザードマップに地域の安全な場所や危険な場所、避難経路、避難先などを記入して作るあなたの命を守るための防災マップです。
 この防災マップを一度作っておくと、自分のいる場所の情報が一目で確認できるため、現在の安全度や避難についてイメージがしやすくなります。
 もしも作っていないのであれば、一度DIGをやって作成してみてください。
 そして、それができるまではとりあえずのつなぎとしてハザードマップを見やすいところに貼っておきましょう。
 見やすいところに貼ってあると、いざというときにすぐに確認ができます。また、普段から見るところに貼ってあれば、無意識に周辺の状況を覚えていたりするものです。
 ハザードマップにしても防災マップにしても、見てすぐに片付けてしまうのでは何の役にも立ちません。
 こういった地図は使い込んでこそ価値が出てきますから、例えば玄関やトイレ、廊下や居間など、普段から目につきやすいところに必ず貼っておいて、いざというときに大切にしすぎてしまったところがわからないというようなことがないようにしたいものですね。
 余談ですが、災害対策に意識のある地域では、例えば居酒屋のトイレや駅、地域の掲示板などさまざまなところにハザードマップが貼ってあることに気づくと思います。
 災害対策については、知らなかったということを正当化できる理由はありませんから、普段からの意識付けの一つとして、自宅の中だけでなく、さまざまなところに貼っておくといいと思います。

非常用持ち出し袋の防水について考える

 水害や津波からの避難時には身体が濡れてしまうことがあるかもしれません。
 また、非常用持ち出し袋の中が浸水してしまうことがあるかもしれません。
 避難した後に濡れた服などを乾いたものに着替えるのは絶対に必要なのですが、それを行うためには乾いた衣服があることが大前提となりますが、非常用持ち出し袋に入れてあるさまざまなアイテム類の防水はしっかりとできていますか。
 衣類やタオルだけでなく、濡れては困るものが非常用持ち出し袋にはいろいろと入っています。防水型のリュックサックを使用するのも一つの方法ですが、それでも中に水が入らないと断言することは難しいと思いますので、アイテム類をそれぞれ個別に防水対策を施しておくことをお勧めします。
 防水対策といっても、それぞれのアイテムをジップロックのような水が入らない、漏れない袋に収めるだけ。
 下着類やタオルといったものを複数入れてある場合には、それぞれを個別に包装をしておくと、袋に穴が空いたときでも被害を最小限に食い止めることができます。
 防水リュックに防水対策をした各種アイテムを収めておけば、少々の水は気になりません。命を繋ぐための非常用持ち出し袋がずぶ濡れになって中のアイテムが使えなくなっていたという悲しい事態を防ぐためにも、防水対策はしっかりとしておいたいですね。
 ちなみに、完全防水と生活防水と防滴は意味が異なります。
 具体的なしっかりとした定義はないようなのですが、完全防水は文字通り完全な防水対策ができていること。水に落として水没してもきちんと使えることが前提です。
生活防水は生活するときに水没したら使えないかもしれませんが、雨や水が連続してかかってもきちんと使えるようになっています。最後の防滴は、生活の中でかかる水滴がかかってもきちんと使えるというのが条件です。
 参考までに、時計やスマートフォンなどの電気機械類ではIP(International Protection:国際電気標準会議やJISで定める電気機械の防塵・防水保護構造の等級のこと)という明確な基準が定められています。
 IPの後に続く二桁の数字のうち、最初の数字が防塵性能、末尾の数字が防水性能を表しています。該当するそれぞれの中身については以下のリンク先を参照してください。

電気機械器具の外郭による保護等級(wikipediaに移動します)

DIGをやってみよう

地図に情報を書き足していくことで防災マップが出来上がる。写真はとある仮想町を使っての演習。

 DIGというのをご存じですか。参加する人が地図を囲み、ゲームのように災害時の対応策を考える図上訓練のことで、Disaster(災害)、Imagination(想像)、Game(ゲーム)の頭文字をとってDIGと呼ばれています。
 一枚の大きな地図を用意してそこにハザードマップの内容や道路や水路、危険に見える建物や構造物、病院や薬局といった施設などを書き込みをしながら地域の強みや弱みを洗い出していきます。
 対象とする災害やテーマを絞れば短時間でもできますし、一人でも複数人でも楽しみながら作ることができます。
 また、情報を一枚の紙にまとめて図化するので誰でも理解できるものができますから、参加した人だけでなくその地図を見る人達の防災力の向上も期待できます。
 聞くと少しだけ取っつきにくい感じがしますが、実際にやってみると非常に面白く、意外な発見があったりしますから一度やってみることをお勧めします。
 参考までにDIGの作り方について記載したウェブサイトをご紹介しますので、興味のある方はぜひ覗いてみてください。

DIGってなぁに?」(静岡県庁のウェブサイトへ移動します)

ハザードマップの検証をしていますか

DIGの風景
地域の強み弱みを知って考えよう

 各自治体ではハザードマップを作成して自治体内の世帯に配布していますが、あなたは見たことがありますか。
 ハザードマップは特定の条件下での被災状況を図化したもので、自治体や地域の避難計画作成の基礎となる資料の一つです。
 これには地震や浸水害、土砂崩れの危険性が色分けで表示されていて、とりあえずの危険な場所がわかるようになっており、あなたが避難計画を作るときには必ずこれを見ているはずです。
 ハザードマップの検証では、自宅からの避難だけでは不十分です。勤務先や通学先、途中の経路、よく買い物や遊びに行くところ、そして自分が避難すべき避難所の災害対応状況といったものも確認しておかなければいけません。
 避難所は災害から身を守るために避難するところなので、避難すべき避難所がどのような災害に対応しているのかを正確に把握しておかなければ、避難した避難所で被災したと言うことになりまねません。
 想定される災害のハザードマップに、地域の災害伝承の情報を追加すると、より安全な避難を行うことができるようになりますので、分かる範囲で確認して追加しておきましょう。
 避難経路は状況や環境の変化によって常に見直しが必要ですし、地域としての防災マップ作りも必要となるでしょう。
 今住んでいる場所だけでなく、自分が行きそうな場所の経路と安全性を確認しておいて、いざというときに備えたいですね。

【活動報告】高津小学校様の避難訓練を見学させていただきました

 去る10月29日、高津小学校様で実施された避難訓練を見学させていただきました。
 想定は地震が発生、その後津波が来襲するということで、校外の安全な高台にまで全学年で避難をするというものでした。
 地震では、机の下に隠れることになっていますが、サイズや作り方がばらばらのため、うまく隠れることのできない子どももいたようです。

整然と校内からの避難をする生徒さん達。教科書で頭を防護している。

 その後、放送に従って校内からまずは校庭へ。校庭で一度安否確認した後に最寄りの高台である高津中学校まで駆け足で避難を行っていました。
やってみると、道路のあちこちに危険な場所があったり、避難経路が計画と異なったり、移動速度の違いから距離が空いたり詰まったりといろいろなことが起きていました。

道路に歩道が無くなって危険な場所。改良は進んでいるが、避難の時にはかなり危険。
駆け足で避難先に向かう。手に持っている教科書は校内からの避難時に頭を守るために使用していたもの。

 ただ、初めてやられた訓練としては素晴らしくよくできたのではないかと見させていただきました。
 大がかりではありますが、こういった訓練は必要なものですし、今後も取り組みが進むことで安全が確保できればいいなと感じます。
 見学の許可を快く出してくださいました担当の先生、校長先生や教頭先生他、教員の皆様、そして参加した生徒の皆さんありがとうございました。
 そしてお疲れ様でした。
 いざ本番の時にも、今回と同じように整然と避難ができることを願っています。

同行避難と同伴避難

犬猫は避難先では基本的にケージ飼いになるので、慣れていないといろいろと大変になる。普段から慣らしておくことが必要。

 ここ最近の避難せずに救助されることとなった人の理由の中にペットを置いていけなかったという事例が増えてきているそうです。
 そのため、最近では原則としてペットと一緒に避難所へ避難せよという方向になっていて、環境省が「人とペットの災害対策ガイドライン」を出し、各方面に向けて飼い主・ペット一緒の避難について呼びかけを行っています。
 ただ、避難所の受け入れ体制が必ずしも整っているわけではなく、ガイドラインでも同行避難と同伴避難というややこしい書き方がされているため、避難所でトラブルが起きる元となっています。
 今回はこのペットの同行避難と同伴避難の違いについて考えてみます。

1.同行避難

 同行避難とは、災害時に避難する飼い主とペットが一緒に避難することです。
 ただ、避難した後の取り扱いが異なり、飼い主とペットが一緒に過ごせる場合、ペットが別の空間に分けられる場合があります。
 収容能力が低い避難所では、避難してきたペットは野ざらしか特定の屋外のスペースにいろいろな動物が一緒くたにされてしまうこともあり、ペットのえさや排泄処理などは自己責任の範疇です。
 ケージなどの狭い空間に押し込められることになるので環境も悪く、せっかく避難したけれど見るに見かねて元の家に戻ってしまうような飼い主・ペットもいます。

2.同伴避難

 同伴避難は、災害時に避難する飼い主とペットが一緒に避難し、避難所で一緒に生活することができる状態です。
 飼い主とペットにとっては一番の理想型ですが、家庭毎に部屋が割り当てられることは殆ど無く、動物の種類毎に部屋が割り当てられる状態なので、しつけがきちんとできていないと他の人のペットとの諍いが発生したりします。

 実際のところ、同行避難と同伴避難の境界はかなり曖昧なので、避難してみたら同行避難が同伴避難になったり、その逆も起きたりします。
 もともと人の避難所の数が足りていないという現実があり、一緒に避難してもペットが苦手な人やアレルギーを持っている人、糞尿や鳴き声の問題などいろいろと解決しなければいけない問題が多いですから、あらかじめペットの扱いについてきちんと避難所で取り決めておかないと発災後すぐに大きな問題となってきます。
 ちなみに、聞いた話ですがペット対策を考えているある地域ではペットお断りの避難所とペットと一緒の避難所に、避難所を物理的に分けて運用しているところがあるそうです。そういうのも一つの解決方法かもしれません。
 ともあれ、同行避難にしても同伴避難にしてもペットに対しては飼い主が全ての責任を負うことになります。ケージの準備、えさや水、糞尿の始末、しつけ、予防接種などの前提条件がありますから、問題がないように飼い主の責任はきちんと果たしておかないと自分が困ることになります。
 また、ペットを連れての避難は、自分の非常用持ち出し袋だけでなく、ペット用の非常用持ち出し袋も持って行かなければなりません。
 そう考えると、ペットと一緒に避難をしたいと考えている人は普通の人よりも早めに避難行動を開始した方がよいかもしれません。
 また、ペットと一緒に避難する人は普段から地域の防災情報をしっかりと知り、地域防災計画にもペットの問題を提起してしっかりと関与しておく方が安心です。
 まだまだ始まったばかりのペットと一緒の避難行動。犬や猫だけでなく、さまざまな動物がペットとして飼われています。
 それらへの対策をどのようにしていくのか。普段から地域でしっかりと話をしておきたいですね。