どうして避難命令が存在しないのか

 災害対策法では、「避難準備」「高齢者避難開始・避難準備」「避難勧告・避難指示」という風にレベルに分けて避難に関する具体的な行動が決められています。
 ただ、ちょっとだけ注意して欲しいのが、巷でよく言われている「避難命令」は災害では存在しないことを覚えておいてください。

大雨時における自治体の警戒レベルと発表基準、住民に期待される行動の一覧表。令和3年6月頃にはレベル4が避難指示だけになる予定。

 これはどういうことかというと、災害時における避難の判断は各自で行うべきという考え方がベースにあるからです。
 例えばA地区に避難命令を出したとします。そうすると、A地区の住民の全てに一律に避難する義務が発生するため、安全な場所にいるはずの人が避難をするときに災害に巻き込まれたりする可能性が出てきます。
 行政が発表する避難情報は面である該当地域全体に出しますが、実際の避難はその地域に住んでいる各々が周囲の状況などを見て判断する必要があるため、あえて命令になっていないのです。
 つまり、避難は誰かに言われてするものではなく、自分の判断で決定をするものなのだということです。
 災害時の避難はあなた自身が主役であって、決してお客様ではないのです。
 災害対策で一貫して決まっているのは、さまざまな行動決定権は各個人が持っていて、最終的な責任も各々がとると言うこと。
 つまり、最終責任は自分にあるということを忘れないでくださいね。

震度で被害を予想する

 地震が毎日のようにあちこちで起きていますが、備えはされていますか。
 おうちの耐震化、内部の家具や棚などの耐震化など、地震に関して言えば事前準備でその後の復旧作業がずいぶんと変わってきます。
 「段取り7割」や「段取り8割」という言葉がありますが、地震はまさにそのとおりで、いざ本番が起きたときにはその時点で全てが終わります。
 ところで、震度と被害の関係について考えたことがありますか。
 地震でさまざまな震度が発表されますが、その基準は次のようになっています。

 この表をみてわかると思いますが、震度5弱が黄色、震度6強で赤になっています。
気象庁が作成する色つきの表では基本的にこの色が使われていて、黄色は「注意」赤は「危険」と考えます。
 ちなみに紫は死者が出ている可能性があるときに使われる色だと思ってもらえばいいと思います。
 そこから考えると、黄色は「もしかしたら何か被害が出るかも」のスタートライン、そして赤では「何らかの被害がほぼ確実に出ている」、つまり赤表示になっている震度6強以上では何らかの災害がその地域で発生したと考えてよいでしょう。
 紫や濃い紫では確実に被害が出ていると考えてよい状況なので、それに対する対策を考えておかなければなりません。
 ところで、震度とセットでよく出てくるマグニチュード。これは震源のエネルギー量を示すもので、おおざっぱに言うとマグニチュードが一つ上がると、エネルギー量は30倍になります。
 つまり、震度3は震度1の2ランク上になるので、30倍×30倍=900倍の力が発生したと言うことになります。
 計算上はマグニチュード9以上では地球が割れてしまうことになるので、マグニチュードとしては最大が9となっているわけです。

マグニチュードと震度の関係を表す図。震源は一つだが、地盤や伝播の仕方によって同じ距離でも震度は異なる。

 いろいろと書きましたが、震度5弱以下であっても耐震化していない場合にはものが崩れたり倒れたりすることがありますので、まずはおうちの中の耐震化、そしてできれば建物の耐震化もしておいてくださいね。

水を持ち歩く

ペットボトルにもさまざまなサイズがある。小は180mlからあるらしいので、一本カバンにいれておくといろいろと便利。

 被災して困ることはいろいろとありますが、どうにも我慢できないのは排泄とのどの渇きです。
 排泄は最悪その辺の陰で失礼することができるとしても、のどの渇きはどうにもなりません。
 特に保水力のない子どもとお年寄りに関して言えば、水の切れ目が生命の切れ目になってしまう可能性もあります。
 対策としては、普段持ち歩くカバンの中に水筒や水のペットボトルを入れて持ち歩くことくらいしかないと思います。
 そんなにびっくりする量でなくても構いません。自分が持てる範囲の重さの水でいいので、できる限り持ち歩く習慣をつけておくようにしておきましょう。
 無理に長期保存水やペットボトルを買って持つ必要はありません。空きペットボトルに水をいっぱいまで詰めておくと、2~3日はきれいな状態で飲むことができますから、こまめに入れ替えることでお財布にもやさしい災害対策になると思います。
 あめ玉や梅干しなどの酸っぱいものを持って歩くのもいいと思いますが、脱水症を防ぐためにも、自分の呑む水は準備しておきましょう。
 余談ですが、準備した水を災害で使うときには、一気に飲むとすぐに水がなくなってしまいます。
 45分から1時間ごとにキャップ一杯程度を飲むようにして、脱水症状になる前に水を補給しましょう。
 また、少量の水でも定期的に摂取するとある程度は感染症を防ぐことも可能という話もあります。
 お出かけの際にはカバンに水を持って歩くことを、生活習慣にできるようにしたいですね。

日常と非日常の境界線

 普段の生活である日常と災害などが発生しそう、または発生した際の非日常の境界線はどこにあるのでしょうか。
 妙に哲学的な話になりますが、日常と非日常を切り替えるための境界線を決めておくことが災害対応の鍵となります。
 いきなり来る地震はともかく、その他の災害については何らかの事前の予兆がありますから、その予兆のどこで非日常に切り替えるのかを決めておくことで、行動の遅れを防ぐことができます。
 そして、決めたらその境界線をとりあえず愚直に守ってみること。
 災害では、ほんの数分の判断の遅れが致命的な事態を招くことが多々あります。
 「まだ大丈夫」や「とりあえず様子を見る」といった判断は、非日常になったと判断する基準を超えたら考えず、まずは事前に決めておいた行動を取ることです。
 修正や反省や改善は災害が終わった後でも充分な時間をとることができます。
 行動を取って状況が終了してから、あらためて非日常に切り替わる条件を見直せばいいだけの話。
 普段から緊張していても身体が持ちませんし、非常時に日常を押し通そうとすると危険です。
 日常と非日常との境界線を決めておくことは、災害対策の基本の一つだと思います。

普段使う道の安全点検

例えば、こういった道で地震に遭遇したとしたら、あなたならどうやって身を守りますか?

 新学期になり、入学式もあり、さまざまなところで生活環境が変わっている方も多いと思います。
 住むところや通勤・通学路が変わった方もいるのではないでしょうか。
 せっかくなので、散歩や周辺の調査も兼ねて、お住まいの地域や通勤・通学路の安全点検をしておくことをお勧めします。
 普段はあまり意識しない道路ですが、よく見ると同じ道路でも安全な場所危険な場所があることに気づくと思います。
 危険な場所は誰でも気づくと思いますが、身を寄せることのできる安全な場所は、点検のときでも案外と見落としていたりするものです。
 安全点検では、危険な場所、安全な場所、そして役に立ちそうなものを見つけて確認していきます。いざというときにいきなり安全な場所や役に立ちそうなものを見つけるのは難しいですから、最初にしっかりと調べておいて、いざというときに備えておきたいものです。
 また、もしお子様がいらっしゃるのであれば、ぜひ一緒に通学路の点検をしておいてください。そうすることで、安全や危険について同じ目線を持つことができます。
 災害が起きたとき、どこでどうやり過ごし、どこで合流するのか。
 常に大人の目があるとは限りませんし、周囲の大人が正しい判断をするとも限りません。
 どんなに小さくても、自分の判断で自分の命をしっかりと守れるように、しっかりと安全点検をしておいて欲しいと思います。

在宅避難のメリットデメリット

避難所設営訓練の一コマ。新型コロナウイルス感染症対策として、やっとこさで各避難者同士の目隠しを用意する必要性が理解されてきた。

 新型コロナウイルス感染症対策で元々存在していた避難所の問題がクローズアップされるようになってきました。
 元々、行政の設定する避難所の収容人数はかなり無理のある数字があげられていたのですが、新型コロナウイルス感染症対策でパーソナルスペースを確保しなければならなくなった結果、本来の収容予定人数の半分以下、ひどいところになると当初計画の10%程度しか収容できない避難所も発生しています。
 そして、現在推奨されているのが在宅避難。
 避難所ではなく、できるだけ自宅で過ごせるように手を打っておきましょうという方向へ方針転換をしています。
 「在宅避難」とは文字通り災害後も家で過ごすということなのですが、避難していないというといろいろなところに問題が発生するため、在宅避難と定義しています。
 在宅避難では、避難所と比べて次のようなメリットデメリットがあります。

1.在宅避難のメリット

 メリットで最も大きいのが、生活空間を従来通り維持できるということです。
 被災前も住んでいた家をそのまま使うのですから、自分の生活空間は今まで通り。プライバシーも守れて他人に気を遣う必要もありませんからストレスは少なくてすみます。又、感染症に対するリスクも低くて済みます。乳幼児や高齢者、障害者で支援の必要な人やペットのいるご家庭では、基本的にこちらを選択できるような状況を整えておくと慌てなくてすむと思います。

2.在宅避難のデメリット

 在宅避難のデメリットは、避難所への避難に比べると支援情報が入りにくくなることです。
 現在のさまざまな災害支援体制は避難者支援に重点が置かれているので、在宅避難者への情報提供はどうしても遅れ気味になります。
 そして、支援物資が提供されにくいという問題もあります。
 在宅避難者だろうが避難所避難者だろうが、被災者には変わりないので支援物資についてはきちんと提供する義務があるのですが、集積基地となっている指定避難所の運営者がそのことを理解していないケースが割とあって、在宅避難者が支援物資の提供が受けられないということが起こっています。
 それから、周囲が避難所避難を選択した場合、さまざまなことを気軽に相談できる相手がいないという事態が想定されますので、避難先などをあらかじめ聞いておくようにしておくと安心です。

 全ての災害に対して安全な家や環境にお住まいなら在宅避難で問題ないのですが、そうでない場合には、避難すべき災害と避難しなくてもいい災害とを知っておく必要があります。
 ハザードマップや過去の被災事例を確認し、お住まいの家や建物の状況を確認して、想定をしておくようにしてください。
 災害が起こりにくい時期だからこそ、しっかりと確認して備えておきたいですね。

避難所から帰る判断

(写真はイメージです)

 災害が予測されるために避難所に避難した場合、いつ帰宅する判断をすればいいのでしょうか。
 大概の場合は、災害が起きる可能性が低くなって各種警報が解除されたときになると思うのですが、ここで一つだけ気をつけて欲しいことがあります。
 それは、大規模な災害は起きていないが、あなたの住んでいる地域や住んでいる場所で災害が起きなかったという意味ではないということです。
 避難を要するような大規模な災害に対する警報が解除されるのは、けっこうな確率で夜中になることが多いのですが、解除されたからすぐに安全が確保されるというわけではありません。
 避難所の状況にもよりますが、可能であるならば避難所から自宅に戻るのは太陽が出て周辺が明るくなってからにした方が安全です。
 避難所によっては、「警報解除=避難所閉鎖」として避難者を追い出すところもあるようですが、避難するということは避難した人の安全を確保するという目的で避難しているので、解除後帰宅途中で被災しては目も当てられません。
 避難所に行くときにはできるだけ明るいうちに移動しようということは割と言われるようになってきましたが、避難所から帰るときも、できるだけ明るくなったからにするようにしてください。
 そして、避難所を運営する場合には避難者がそのような行動をとることを前提にして避難所開設・運営を準備するようにしてください。
 繰り返しになりますが、避難行動は身の安全を確保するために行われる行動です。そのことを前提にして、避難・避難解除の行動をしていきたいですね。

災害に慣れること、慣れないこと

机の下でダンゴムシ
防御姿勢はTPOに合わせて取ろう。

 宮城県や岩手県の方では大きな地震が起きて津波注意報も出たようですが、大きな被害が出ないことを願っています。
 さて、地震にしても大雨にしても津波にしても、とてつもなく大きな被害を出すようなものはそこまで多くはありません。
 ですが、普通の生活をしているとそれなりの揺れやそれなりの大雨、また津波の予測が出るのに出くわすこともよくあります。
 災害に慣れるという点では、これらが起きると防御姿勢や避難誘導、避難準備の早さなど良いことがたくさん起きるのですが、それなりの災害というのは、結果的に人の生活に影響のある災害が起きないことが殆どです。
 不思議なもので、そうなってくると何か災害の予兆があっても「どうせ何も起きっこない」と考えて身の安全を守る行動を取らなくなってくるのです。
 災害の予兆が当たり前になって、普段の生活に影響が出ないと信じ込むようになった頃、大きな災害というのはやってくるような気がします。
 99回避難して何も起きなかったからといって、100回目もそうだ誰が決められるのでしょうか。
 100回目でも1000回でも、愚直に命を守るための行動をすること。
 災害に慣れるなら、「何も起きない」と考えるのではなく、命を守る行動を取ることに慣れたいですね。

ズボラか災害対策か

 我が家の廊下の壁にはお菓子の入った袋がぶら下げてあります。
 中身はスナック菓子やあめ、チョコレートなどで、家族全員が満足できる量はありませんが軽いお菓子パーティーができるくらいにはバリエーションが揃っています。
 それなりに大きな袋になるので目立ちますし、中身を知っている人からは「みっともないからどこかへ収納したら?」と言われることもあるのですが、その都度「これは非常用持ち出し袋です」と返事をしています。
 非常用持ち出し袋というと生活用品が全て揃った厳ついものを家族全員分揃えて並べてあるというイメージの人もいるみたいですが、誰もが知っていて何かあったら持ち出せるようになっていて、当座の生活を維持できるものが入っているなら、それは立派な非常用持ち出し袋になると思っています。
 もちろん、この中に携帯トイレや飲み物、着替えやエマージェンシーシートなどを入れておけば言うことはありませんし、持ち歩きしやすいようにリュックサックに入っていれば、もっといいと思います。
 でも、目的はあくまでも非常時にすぐに持ち出せるかどうか。ついでに書くと、普段の生活の中で不自由がないようにしておくことも大切です。
 我が家の場合には、そのバランスを取った場所が廊下のお菓子袋だということです。
 非常用持ち出し袋も準備はしてありますが、小分けで持ち出せるものの数が多ければ多いほど生存確率はあがります。
 ぱっと見にはズボラに見えても、見方を変えれば立派な災害対策になるということを知っておいてくれるとうれしいです。

車の燃料に気をつける

 車の燃料の量と行動の自由は直結しています。
 特に車が普段の生活に必要な地域に住んでいる人にとっては、車の燃料はある意味生命線を握るといってもいいでしょう。
 もしあなたが車が普段の生活に必要な地域に住んでいるとしたら、あなたは車の燃料をどんなタイミングで注いでいるかを考えてみて下さい。
 もしもあなたが燃料警告ランプがついて補給する癖がついているようなら、できるだけ早めにその癖を直すことをお勧めします。
 できれば、燃料計が半分を切ったら燃料を注ぐ癖をつけておきましょう。
 大規模災害に襲われると、当面の間は燃料が届きません。そして、車が無事だった場合には、本来の用途以外にもいろいろと使われることになります。
 例えば止まるための簡易寝床として。あるいは暖房・冷房器具として。それから発電機としても使われることがあるでしょう。
 非常に便利な道具なのです。
 でも、基本は燃料があるからそれらに使うことができるわけで、燃料が切れてしまうとただの金属の塊と化してしまいます。
 被災地だけではありません。
 どこかで大規模な災害が発生すると、それ以外の地域の燃料供給が途切れがちになることも多いですから、燃料があると言うことは自分の自由を保障するという意味でも大切なのではないかと思います。
 東日本大震災では、発生から半年くらいは燃料輸送用のタンクローリーが不足したことから被害のなかった離れた地域でも燃料の給油制限が行われていました。
 災害が直接起きていない地域であっても、燃料不足が起こる可能性があるのです。
 万が一に備えて、車の燃料はできるだけ残量があるようにしておいてくださいね。