避難訓練の本気度

 避難訓練の支援をさせていただいていると、「他人事」になっているなと感じる人達が殆ど全ての場所で確認できます。
 「かっこ悪いことはしない」という感じで、なぜ訓練をしなければいけないのかを理解いただけていないのかなとも考えますが、他人事になると退屈ですので見物状態やおしゃべりに夢中になってしまい、訓練参加者がシラケてしまうという事態が発生します。他人事になっているのは殆ど100%避難する人ではなく、避難誘導すべき立場の方なのを考えると、本当にこれで大丈夫なのだろうかと不安になります。
 避難訓練をやることが目的になってしまっていて、やる前、やっているとき、やった後の検証作業もせず、かなり適当に実施して終わったことにするような場合もあり、これならいっそやらない方がいいのかもしれないなと思うようなものもあります。
 もっとも、防災担当がいるような会社や組織は殆どなく、たまたま仕事のついでに防災担当をつけられたような人が片手間にやるのであれば、毎回同じマニュアルで訓練をすることも仕方がないのかなと思います。同じ内容であれば、毎回参加する側は考えなくてもいいので非常に楽ですし、参加者の評判もいいわけですから。
 ただ、本番ではマニュアル通りにできることはまずありません。状況を無視してマニュアル通りにしようとするとどうなるのかは、「想定外」という言葉を考えてもらえばわかるのではないでしょうか。
 訓練では、失敗が起きることが大切です。その失敗の解消方法を検討して実行することで、より本番に近い訓練ができ、結果的に本番でも命を守ることができるのではないかと思います。
 また、避難訓練の参加者それぞれが、自分の命をどうやって守るのかを考えながら行う避難訓練であれば、いざ本番でも確実に自分の命を守るべき行動をとることができるようになっていきます。
 せっかく訓練をするのですから、しっかりと考えて避難訓練が本番で生かせるようにしておきたいですね。

避難勧告の廃止と警戒レベル

 今国会で議決された災害対策基本法の改正点については、報道発表の情報などを元にちょくちょく書いてきましたが、令和3年5月20日からいよいよ適用されます。
 ここ最近の災害と対応を検証した結果がいろいろと反映されているのですが、市町村が発令する警戒レベルについて大きな変更があるのでもう一度書いておくことにしました。


 市町村が発令する警戒レベルは、発生している状況に応じてレベル1から5まで区分されています。
 このうち、レベル3以上の記載が変更になっています。
 順番に見ていきましょう。
 まずはレベル3「避難準備・高齢者等避難開始」は「高齢者等避難」という表示になりました。
 正直なところ、これは元のままのほうがよかったのではないかという気もするのですが、住民がやるべきことは変わらずで、高齢者以外の人も避難準備や、可能であれば自主的に避難を開始することになっています。
 次にレベル4。「避難指示(緊急)」と「避難勧告」の二つがこの中に存在していたのですが、今回の改正で「避難指示」にまとめられ、従来の避難勧告のタイミングで発令されることになりました。
 「レベル4の発令=すぐ逃げろ」となったわけです。
 最後にレベル5。「災害発生情報」から「緊急安全確保」に変わり、レベル5ではとにかく身を守る行動をしろという風になりました。
 状況は変わっていないので、要約すると「災害が発生しているからとにかく身を守れ」ということです。
 今までのレベル5では「屋内の安全な場所に避難する」となっていましたが、今回の改正に併せて「屋内または近くの堅牢な建物等の安全な場所に避難する」と修正され、屋内避難にこだわらないようになっています。
 詳細はリンク先の資料をみていただければと思いますが、警戒レベルと行動の内容が全体的に前倒しされています。
 避難した結果、何も起きなかったのならただの笑い話。避難せずに災害に巻き込まれたら、そこで命が終わることも起こり得ますので、今回の警戒レベルの変更についてはしっかりと確認して置いてください。

避難情報に関するガイドラインの改定(令和3年5月10日)(内閣府防災のウェブサイトへ移動します)

新たな避難情報に関するポスター・チラシ(内閣府のウェブサイトへ移動します)

災害支援は人が多いところから始まる

 災害後、さまざまな支援が行われますが、その支援体制は被災地全体に均等ではありません。
 支援の効率上、どうしても被災者が多く被害状況のひどい部分から着手されることになり、被災者の少ない地域は後回しになってしまいます。
 特に道路の開削や物資の供給などはどうしても遅れてしまうので、そういった地域の人は一度物資が確実に届く場所の避難所に避難し、開削や物資補給の体制が整ってから改めて住んでいる地域に戻ることになってしまいます。
 そのため、その地域で農畜水産をやっている場合には世話ができなくなって収入が絶たれてしまうという事態になりますので、被災したときにどのようにするのかについてはあらかじめ考えておく必要があります。
 また、救助の手も遅れることが多々あるので、生活備蓄のうち、買わないといけないものについては少し多めに準備しておいたほうが無難です。
 復旧・復興支援についても同様で、ボランティアなどの支援も遅れたり、または来てくれなかったりします。
 できる限り自分で復旧するか、緊急性を要する部分に限定してお手伝いをお願いしたり、地縁、血縁、SNSなどを使ったボランティアのお願いなど、ボランティアが来るのを座して待つのではなく、来てもらえるようにいろいろと働きかける方法を考えておいた方がいいでしょう。
 どちらにしても、災害支援は人が多くて目立つところから始まります。
 そのことを頭に置いた上で、自分の暮らしを復旧・復興するためのBCPを検討するようにしてください。

大雨警報の基準を確認しておこう

 そろそろ大雨に備えて準備をしておいても良い頃かもしれませんが、あなたの大雨対策は大丈夫ですか。
 大雨で行動を判断する一つの基準として、大雨時の警報があります。
 今日はこの大雨警報の基準を確認しておきたいと思います。

 

毎回書くことではありますが、自治体はどうしても地域を面で見ているので、点であるあなたの居場所がどうなのかは、自分の目で見て判断するしかありません。
 大雨では、気象庁が発信している情報や都道府県などが発表する土砂災害警戒情報などを元に地元自治体が避難の判断について発表をしていますので、見方を変えると判断に必要な同じ情報を自分でも得ることができると言えます。
 自分のいる場所の災害特性をしっかりと知った上で、気象庁や都道府県の基礎情報を見ることで、もしかすると地元自治体よりも早く行動を起こすことができるかもしれませんから、情報を得られる環境であるならば、天気がおかしいと感じたときに積極的に情報を調べるようにしてください。
 そのちょっとした行動が、あなたや家族、周りの人の命を救うことになります。
 とりあえずは大雨の基準を確認しておいて、いざというときの行動について再確認しておいてくださいね。

災害で起きる問題と事業継続化計画(BCP)

 災害時に備えて事業継続化計画(BCP)を作る理由はいろいろとありますが、その大きな目的の一つに「発生する問題を可能な限り早く解決する」ことがあります。
 問題というのは、発生したのに無視し続けると、多くの場合は問題が問題を生んでしまって収拾がつかなくなります。
 特に災害などの緊急時においては、一つの問題放置が後々大問題になることもありますから、できる限り一つの問題のときに対応して処置しておかなければなりません。
 災害時に発生する問題は多岐に及ぶので、どんなにBCPを作っても100%問題は起きないと言い切ることは無理ですが、過去のさまざまな災害から、災害が発生したときに自分たちが対応すべき問題は何かと言うことはある程度予測が可能です。
 予測した問題には予め解決方法が考えられているわけですから、それに従って手順を踏めば、基本的には対応者が誰であれ解決できるはずです。
 BCPの手順書は、そういった目線で作成する必要がありますので、「わかりやすく」「明確に」を考えて作成してください。
 そして、BCPがあれば、その場の指揮官は突発的に起きる事態に対応を専念させることができます。その結果、さまざまな問題が小さいうちに終息できて、復旧や復興が予定通り、または予定以上に早く完了できることになり、そのために作成するものです。 BCPを作っておくことは、今ある戦力でどれだけのことができるのか、そして何を優先して対応するのかを明確化することと、問題対応の手順を予め定めておくことです。
 現状を維持する方法ではなく、何から優先して対応すべきなのかを常に頭に置きながら作成するようにしてください。

「逃げなきゃコール」をご存じですか

 自分で避難の判断をすることはなかなか難しいものですが、顔見知りから避難しようと言われると、なんとなくそうしようかなという気になるものです。
 特に高齢者の方の場合にはその傾向が強いようですが、ご近所やただの知り合いだと、夜遅くや朝早くにはなかなか避難の声をかけにくいもので、その結果として逃げ遅れてしまったりすることがあります。
 そんなとき、遠方にいるご家族や親しい人から「避難して」という電話が入ると、逃げないといけないのかなという気になりやすいですし、早朝や夜間でもそこまで失礼とは感じないものです。
 そこで、「逃げなきゃコール」の出番です。
 電話をする相手が住んでいる自治体の防災メールに登録しておいたり、スマホアプリの「NHKニュース防災」「Yahoo!災害情報」、「au登録エリア災害・避難情報メール」で条件を登録することで、遠方で起きている各種災害の情報が入ってくるようになります。
 6月からはNTTドコモもユーザーが指定した地域で緊急速報を告げるエリアメールが出されるとショートメールでお知らせしてくれるサービスが始まるそうですから、そういった情報を上手に活用して早めの避難を促すようにしてほしいなと思います。
 避難すべき場所に住んでいる人の「避難」という行動を起こすために背中を押してあげる「逃げなきゃコール」。
 大切な方を守るためにも活用して欲しいなと思います。

【おしらせ】警戒レベルの内容が変更されました

 災害時にはさまざまな行政機関からさまざまな警戒情報が出されていますが、住民が判断基準として使うように作られているのが市町村長が発出する警戒レベルです。
 令和3年4月28日に国会で審議され可決、成立した改正災害対策基本法の中で、この警戒レベルの内容が見直されました。
 今まではレベル4に「避難勧告」と「避難指示(緊急)」が同居していたため、例えば、「レベル4・避難勧告」といった感じでレベル4の後に内容を表示していましたが、今回の法改正で「避難勧告」が廃止され、避難指示に一本化されることになりました。

下側が改正後の基準。実質レベル3に避難勧告が取り込まれ、避難を前倒しするようなイメージ。

 レベル3の「避難準備・高齢者避難開始」からレベル4の「避難指示」までにはかなりの状況の開きがあるような気もしますが、これでレベルと意味がセットになったので、今までよりもわかりやすくなったのではないでしょうか。
 実際の運用は、法成立から一月以内に公示して施行となりますので、遅くとも梅雨時期までには変更されることになり、より早めの避難が期待できることになります。
 とはいえ強制力はありませんので最終的な判断は個々人に委ねられているわけですが、昨今の大雨や台風の状況から考えると、改正されたレベル4がいつ発出されてもおかしくないと考えます。
 もう一度書きますが、レベル4は「避難指示」です。避難勧告よりもより緊急性が高いと言うことを知っておいて欲しいと思います。

2021.5.12追記:表を最新のものに変更しました。

通勤・通学経路を確認しよう

 家の安全についての検討が終わったら、次は家と職場を結ぶ通勤・通学路を確認してみましょう。
 普段意識することのない高低差や建物からの落下物の可能性、陥没や倒壊など、災害というフィルターを通すと普段と違った風景になってくると思います。
 特に車での通勤・通学をしている場合にはアンダーパスに気をつけてください。
 アンダーパスは、大雨時には周囲から雨水が流れ込んで大きな池になってしまうことがあり、意識せずに普段どおりに運転していると水没したアンダーパスに突っ込んでしまうケースが非常によく起きています。
 短時間で大量の雨が降る場合には、管理者の通行止めの措置が間に合わない場合もよくありますから、通勤経路を見直すときにそういった場所は外すようにするか、または大雨時には必ず迂回するということを常に忘れずに考えるようにしておいてください。
 他にも、風が吹いたら飛んだり落下しそうな屋根や看板、増水時に落ちてしまうかもしれないマンホールや側溝、地震時に倒壊しそうな塀や建物など、どういった経路にすれば一番自分が安全に移動できるかを考えてみましょう。
 小学校などでは通学路が決められていることも多いのですが、筆者の知る限り交通事故対策は考えていても防犯や防災の視点は取り入れられていません。

子どもによる通学路の安全点検の一コマ。

 そのため、子どもがいる場合には一緒に通学路を点検しておく必要もあるでしょう。 おうちの防災計画では、家から避難所までの安全な避難路を検討することがあると思いますが、普段使っている道の危険を知って安全対策をしておくことはとても大切なことです。
 災害対策は普段の生活の中にあるものですから、何かを考えるときには災害対策の視点を加えてみてほしいと思います。

災害対策で最初に家を考えるわけ

耐震化してないと、家具の下敷きになることも

 災害対策、特に地震では対策をするときに一番最初に言われるのは耐震補強、または耐震化という話です。
 家の倒壊を防いで命を守るということが一番の目的ですが、被災後にできるだけ避難所に避難しなくても済むことも大きな理由の一つです。
 もしお手元に避難所一覧があれば確認していただきたいのですが、避難所の大きさと収容人員を比べてみてください。その避難所の建物の中に、全ての避難者が生活スペースを確保して収まるでしょうか。
 多くの避難所は収容能力を超える避難者が割り当てられています。
 公的な施設に全ての住民を納めるとこうなりますということなのですが、実際に災害が起きると避難者が収容しきれずにあふれ出してしまうという事態が発生しています。
では、もしも家から避難しなくて済むとしたらどうでしょうか?
 家の安全が確保されているのであれば、避難時に危険な目に遭う可能性のある避難所への移動はしなくてもよくなります。
 また、住み慣れた家ですからどこに何があるかも知っているし、他人の目も気にしなくて済み、ストレスも少なくて済みます。
 できるだけ自宅から動かなくて済むように準備することが、災害対策のとても重要な位置をしめているのではないかと、筆者はそんな気がしているのです。
 もっとも、全ての家が安全な場所に建っているわけではありません。水害や台風などで被害を受ける場所にあるおうちだってあるでしょう。
 幸い、地震以外の災害では、大抵の場合何らかの前兆があります。自分の住んでいる場所がどうなったら危険なのかをあらかじめ調べておいて、どうなったら安全な避難所への避難行動を開始するのかを決めておけば、とりあえずの安全を確保することは可能になります。
 あなたのお住まいの家は地震に強い作りになっていますか。
 そして、他の災害で被災が予測されるような場所ではありませんか。
 災害対策は、それを確認するところから始まります。

個別避難計画と福祉避難所

 今の国会で災害対策基本法が審議されていますが、その中に要支援者の個別避難計画の策定が市町村の努力義務であることが明記されました。
 過去の災害で高齢者の避難が遅れて犠牲になるケースが非常に増えているため、あらかじめ個別避難計画を作って、何かあればそれに従って避難ができるようにすることを目的とし、市町村や社会福祉協議会、介護事業者やケアマネージャー、自主防災組織が要支援者一人一人の状況に応じた避難計画を策定し、特別な配慮のされた避難所のスペースまたは福祉避難所へ直接避難できるようにするようです。
 これ自体は非常に有効性の高いことで、しっかりと進めていく必要性があると思っていますが、同時にいくつかの問題点も抱えていると考えています。
 まずは誰が要支援者なのかを開示するかどうかということ。
 これはもろに個人情報ですので、本人の同意なしに自主防災組織への情報開示はできません。
 自主防災組織はその地域に住んでいる人達で構成されている組織ですので、好き嫌いや恥ずかしさ、遠慮などがあって支援不要ということを言われる人もいらっしゃるようです。
 介護事業者や社会福祉協議会が対応することになると、今度は要支援者を誰が避難させるのかと言う問題が発生します。
 介護事業者や社会福祉協議会が24時間いつでも避難支援ができるような体制はどこも組んでいないと思いますので、どのように対応することになるのかが気になるところです。
 そして、福祉避難所として指定される福祉施設の立地条件。
 石西地方の福祉施設はなぜか水害や地すべりといった災害に遭いやすい場所に建てられていることが多いです。ある程度面積が確保できて土地単価の安いところということでこうなっているのだと思いますが、福祉施設に避難したらそこで被災したという笑えない状態になることが予測されます。
 また、安全な場所にある福祉施設は、多くの場合一般の避難所として指定されているのが現状です。福祉避難所として機能させる場合には指定者のみが避難できる場所になるはずなので、そのことを地域に周知徹底する必要もあります。
 人的な問題と設備の問題をどうやってクリアしていくのかという大きな課題はあると思いますが、こうでもしないと要支援者が被災地域から避難しないだろうと考えると、関係者にはがんばって欲しいなと思います。
 ついでに書くと、個別避難計画が必要なのは要支援者に限った話ではありません。
 地域に住んでいる全ての人がそれぞれ自分で作成しておくべきものですから、要支援者にとらわれることなく、しっかりと啓発していければいいなと考えています。