効率化と防災

 効率化を求めると、基本的に巨大化・集中化するようですが、こと災害対策で考えると、ある程度以上の効率化や集中化は避けたほうが安全ではないでしょうか。
 例えば、2018年9月6日に起きた北海道胆振東部地震では、効率化による大型火力発電所が停電したことをきっかけとして電力供給力が下がってしまい、ブラックアウトが発生しました。もし火力発電所の規模が中小規模で複数個所に点在していれば、ひょっとしたら防げた事故かもしれません。
 また、極端に権限を集中化させることにより、その権限を持っているところが失われてしまうと一切の対応ができなくなってしまいます。
 市町村合併を進めた結果、かなり広域な範囲を一つの市町村が管轄することになりましたが、例えば市庁舎が災害で被災すると、被災した市の災害対応は完全に停止してしまいます。
 分散化していればしているほど、災害時に受けるダメージを軽くすることはできるのですが、分散化すれば、当然維持するのに必要となるいろいろな経費は増えますので、分散化させればいいというものでもないと思います。
 効率化を求めながら災害時にも強い体制を作ることは、さまざまな分野で大切な問題だと思うのですが、現状では極端な効率化か極端な分散化かという二極論になりがちです。効率化と分散化のバランスを取りながら、いざというときにもできる限り受けるダメージを減らし、すぐに復旧にかかるための手順書がBCPです。
 効率化を求めるのであれば、いざというときに備えたもっとも悲惨な状況での想定で作られたBCPを基にして行うことが、これからの世の中には必要になってくるのではないかと思っています。

暗闇を体験する

 日本に住んでいると、案外と暗闇に出会うことが少ないものです。 
 夜の街を歩いていても街灯はありますし、家の中でもどこでも、ほとんどの場合きちんと灯りがあって、暗闇があるという状態自体が珍しいかもしれません。
 災害時には多くの場合電気の供給が止まってしまうため、本当に真っ暗な中で生活をすることになりますが、普段灯りのある生活をしている人にとって、灯りがないというのはものすごい恐怖になります。
 暗闇というのは、人間にとって本質的な恐怖を感じるもので、それを排除するために現在のような明るさを手に入れたのかなと思っていますが、暗闇を知らないというのも問題があると思います。
 そこで、当研究所の防災キャンプには暗闇体験という項目を作り、実際に暗い建物の中を歩いてみるということをやってみます。
 もちろん完全に真っ暗なわけではなく、非常灯はついていますし、肝試しではないので、懐中電灯や持ち歩ける灯りは持って歩きます。
 それでも、普段とは異なる環境になるためか、怖がったり、友達同士で団子状になったりして、暗いところを歩くというのがどういうことなのかについていろいろと考えるようです。
 災害本番ではほとんど灯りのない状態になっているとは思いますが、そんなときでもこういった暗さを覚えておけば、パニックになることは少ないのかなと思います。
 街中で完全に灯りのないところを歩くのは危険が伴いますが、例えば家族などでキャンプ場などに出かけた時、夜のキャンプ場を歩いてみると、普段とは違った体験ができると思いますよ。

遊びと防災

 防災活動をしていくうえで、結構大変なのが防災に興味を持ってもらうことです。
 そのため、防災活動の普及や推進をしているところはさまざまな仕掛けを作っているわけですが、その中に遊びがあります。
 身体を動かしたり、頭を使ったり、面白がりながら楽しんで体験した結果が、気が付いたら災害時に役に立っているということになるので、有名人の講演会や座学よりも効果的なのではないかと、筆者は思っています。
 先日防災かくれんぼのお手伝いをしましたが、ここでも参加している人たちはとても楽しそうに遊びながら、いざというときの行動についてしっかりと確認していました。
 また、当研究所が子供向けにやっている研修会でも、かなり遊びを取り込んで、できる限り興味を持ってもらえるようなものにしようと試行錯誤しています。
 防災を中心に据えなくても、さまざまなところで体を動かして遊ぶこと、予測をすることというのは非常に大切な体験であり、そういった経験が、いざというときに生き残れるかどうかの差になっていくのではないかと感じています。
 季節もよくなってきました。せっかくなので外におでかけしてしっかりと、身体や頭を使って遊んでみてください。
 子供だけでなく、大人にも大切なことだと思いますよ。

【活動報告】「やってみよう防災キャンプ・春の巻」を開催しました

 2023年3月25日から26日にかけて、益田市の北仙道公民館で「やってみよう防災キャンプ・春の巻」を開催しました。
 当日は15名の子にご参加いただき、段ボールシェルターづくりや心肺蘇生法、ポリ袋炊飯、暗闇体験などを体験してもらいました。

搬送法の一コマ。担架で安全な場所まで搬送する練習をする。

 今後の予定は未定ですが、次回もしやるとしたら、もっと内容を練り込んで、、リピーターも初めての人も楽しみながら防災を学んでもらえるような企画をしていきたいと思っています。
 今回参加してくれた皆様、参加を許可してくださった保護者の方、会場を快くお貸しいただきました北仙道公民館の皆様、そしてさまざまな形でこのイベントを支えてくださった皆様に心から感謝します。
 ありがとうございました。

考え方の違いを理解する

 多くの人が当たり前だと思っていることでも、100%の人がそう思っているとは限りません。
 特に災害後で情報が錯綜しているときには、自分を守るためにどうしても周囲が困ってしまうような行動をとってしまうことがあります。難しく考えなくても、例えばコロナ禍で使い捨てマスクがどういう状況になっていたのかを考えれば理解できるのではないでしょうか。マスクの供給が止まってしまうような報道が出たとたん、店頭でマスクを買い占める人が続出して店では売り切れていた状態。状況がわからずに不安になったので、目につくものをすべて手に入れようとしてしまうことは、迷惑な話ではありますが、感覚としては理解ができませんか。
 さまざまな感覚を持つ人がその所属するコミュニティーに関係なく避難所に避難してくるのが災害です。「そんなことは常識」と考えるのは簡単ですが、思ってもみないところでお互いの悪気のないトラブルが起きるのを回避するためには、ルールをきちんとわかるようにしておくことです。
 全ての手順を誰にでもわかる表示で見えるところに張り出しておくことで、考え方の違う人でもどのような行動をするべきなのかがわかります。
 考え方が異なる人たちが同じ空間で生活するためにはルールを決めることとそのルールをわかるようにしておくこと、なによりも、全ての人がわかる手順を踏んでルールを決めることが大切です。
 緊急時にはそんなことをしている余裕はないと思いますので、できるだけ事前に避難所運営委員会などを設置して、避難所におけるルールを決め、すぐにわかるところに貼りだせるように、場所やポスターなどを準備しておくようにしてください。
 非常時には、ちょっとしたトラブルが大きなトラブルに発展しやすいです。
 できるだけトラブルが起きないような準備をしておきたいですね。

やさしい日本語

 阪神淡路大震災から、大災害が起きるたびに注目されているのが「やさしい日本語」というものです。
 日本にはさまざまな国のさまざまな言語を使う人たちが来ているため、必ずしも英語が通じるというわけではありません。
 地域によっては、同じ国同士の人でさえ言葉が通じないことがあるので、伝える外国語はいくつあっても完ぺきにはならないのです。
 ただ、彼らに共通しているのが、コミュニティーの中には「日本語がなんとか理解できる人がいる」ということです。
 つまり、伝える言語を多国籍化するよりも、わかりやすい日本語を使うことで全ての人に情報を伝えられないかというのが、このやさしい日本語ができた経緯なのです。
 このやさしい日本語、実際に普段使っている日本語をより簡単な日本語に置き換え、状況や内容を理解してもらうことが目的で、やってみるとかなり難しいものです。
 特に災害時や災害後に出される行政からの文章は、より正確性を求められるためにかなり難しい言い回しをしています。
 そこから必要な情報を取り出し、言い換えを行って相手に伝わるようにしなければなりません。
 また、一つの用紙には一つの情報を書くようにした方がわかりやすいのですが、往々にして複数の情報が一文の中に収められたりしているので、これを分ける作業が大変だったりします。
 さらにややこしいことに、それにプラスして日本の習慣も伝えておかないとトラブルのもとになりますから、100%の正確な遅い情報よりも60%の正確性でいいので早く表示できるようにしておかないとまずいことが起こります。
 情報は生き物ですので、可能な限り短時間でタイムラグなく状況を伝えることが重要です。
 できれば情報の発信時にそれが作れることが理想ですが、現時点ではそこまで考えている行政はないと思いますので、なるべく被災者の近くでやさしい日本語に翻訳できるようにできることが求められると思います。そのためには、より多くの人がやさしい日本語に言葉を変えられるように語彙を増やすことと、言い換え言葉を普段から意識することが大切になります。
 また、やさしい日本語は伝えなければならない必要最低限の情報をできるだけシンプルにして作られるため、長文や小さな文字を読むのが難しい高齢者や小さな子供でも内容がわかりやすいというメリットもあります。
 普段から言い換えの訓練をしておくことで、いざというときにすぐ作業ができると思いますので、興味のある方は時間を作って、例えば新聞記事や行政の広報誌などをやさしい日本語に組み替える練習をしてみると面白いと思います。

まずは命を守ること

 日本は災害大国だということは、大きな災害が起きるたびに言われていることですが、災害が起きるたびに犠牲者が出るのはどうしてなのでしょう。
 災害大国というからには、日本のどこに住んでいても災害が起こる可能性はあるわけで、そうするとそれに対する備えをきちんとしておくことは常識なのではないかと思うのですが、実際のところはそうでもないようです。
 災害が起きないようにさまざまな物理的対策をとるのは行政が頑張っていますが、だからといってそれで100%の安全が確保されるわけではありません。
 物理的な対策は、あくまでも安全な場所へ避難するための時間を稼ぐために行われているものだと考えると、自分自身は何もしなくてもいいということにはならないということがわかると思います。
 では、自分自身は何をしたらいいのかというと、まずは自分の命を守るためにどのような行動をとったらいいのかをしっかり考えて備えておくことです。
 災害時に生き残るのは自分自身の判断がかなりのウエイトを占めることになります。災害が起きそうなときには早めに安全なところへ移動したり、災害が起きたら速やかに自分の安全を確保するための行動は、普段から意識していないと本番でも当然できません。
 そのために必要なのが訓練であり、備蓄であり、マイタイムラインと呼ばれる災害時行動計画なのです。
 「起きたらその時」とか「やる意味がない」といったことを考えている人は多いのですが、そういう人に限って、実際に災害が起きると「こんなはずではなかった」というセリフを言います。「こんなはずではなかった」と言えるならまだマシで、災害で命を落とすのは圧倒的にこういった人が多いのです。
 災害発生時に自分の命を守るのは、自分自身しかできません。警察も消防も自衛隊も行政も、災害が発生するその時にあなたを助けてくれるわけではないのです。
 自分の命を守るのは自分自身。そのことを忘れずにしっかりとした準備をしておきたいですね。

備蓄の種類

 災害時に備えるべきアイテム類は3日から1週間程度準備して備蓄しておくように国からは情報発信がされています。人によってはひと月程度準備しろと言っている方もいるようですが、都会地や消費地で生活している人の場合には、支援物資がどれくらいで届くのかまったく予測ができないので、国が言っているよりは長めに準備しておいた方がいいのかなとも考えます。
 ただ、どんなに少ない量でも1週間分のアイテムをリュックサックに詰めるのはかなり至難の業で、非常用持ち出し袋が嫌がられるのには物理的に無理だという誤解や錯覚があるのかもしれないと思うこともよくあります。
 もともと、備蓄には三種類あると筆者は考えています。
 一つ目は普段から持ち歩く防災ポーチ。本当の緊急時に自分の命をつなぐために必要な最低限のものが入っています。
 二つ目は、大雨や台風時などに1泊から2泊程度の生活必需品を詰めて避難に使う非常用持ち出し袋。
 最後は文字通りの備蓄で、5日から1週間程度家や倉庫などに保存してある状態の生活必需品となります。
 家に備えておく備蓄については、普段生活に使っているさまざまなアイテム類を少し多めに準備しておけば大丈夫です。特に食事と水に関しては普段使いである程度保存がきくようなものを重視して買い物をするようにしておけば、そんなに難しい話ではないと思います。
 住んでいる環境によって備えるべきものがかなり異なるので、家に置く備蓄品については各個人や家庭でそれぞれ備えるべきものを準備しておくようにしてください。
 避難に使う非常用持ち出し袋については、車などをお持ちの場合には、家と車の中の両方に準備しておけばかなり安心です。
 その際、車の中はかなり温度差が激しい空間ですので、クーラーボックスなど温度変化を緩やかにしてくれるような容器にいれておくといいと思います。
 そして、普段使いのカバンなどには、防災ポーチを入れておいてください。
 防災ポーチと飲料水が確保されていれば、一日程度は生命の維持が可能になります。
 一口に備蓄しろと言ってもさまざまな形がありますので、それぞれの目的に応じた準備をしておくことをお勧めします。

災害用トイレは使えますか

自治会や自主防災組織の研修会では、仮設トイレの組み立てを実際にやってみてもらうことも多い。

 災害が起きると、断水や停電、浄化槽や下水道管の破損などでトイレが使えなくなるケースが結構多いです。
 トイレが使えない状態なのに無理やり使うと、トイレの中は大惨事になってしまいますので、できるならトイレがちゃんと使えることが確認できるまでは使用を禁止するようにしてください。
 そうなると必要になってくるのが仮設トイレや携帯トイレ。
 ただ、個人や自治会、自主防災組織などで準備はしていても、これを組み立てたり使ったりすることはほとんどないのではないでしょうか。
 普段使っていないものは、いざというときにも使えませんので、防災訓練のときには実際に使ってみてください。
 また、避難所で設営が必要な仮設トイレは、訓練のたびに出して組み立て、使いかたをしっかりと確認しておくことはとても大切です。
 トイレは我慢ができません。そのあたりに穴を掘ってすることにしてしまうと、周囲の衛生状態に深刻な問題が発生します。
 災害時のトイレ設営は最優先されることの一つなのです。
 いざというときに慌てなくて済むように、携帯トイレの準備、そして実際に使ってみること。
 仮設トイレは実際に組み立てて、これも使ってみること。
 この部分の訓練は手を抜かないようにしたいですね。

いかに自己完結できるか

 大規模災害時における被災地支援では、支援者がどれだけ自己完結できる装備を持っているのかがカギとなります。
 衣食住については、被災地では当然不足している状態ですので、被災地に負荷をかけないようにすべて持ち込むことが推奨されます。
 水害のように地域がある程度限定されている状態であれば、被災地域外から通えばすむのでそこまでの負担にはなりませんが、大きな地震だと被災地のエリアが非常に大きくなるため、被災地外から通うというのはかなり難しくなります。また、宿泊用のテントや車を持参していても、それらを展開する場所が確保できない場合も想定されます。
 大規模災害で被災地支援に入る組織は全て似たような悩みを抱えていて、例えば消防や警察はそれぞれの敷地内に輸送用バスや支援車両を置き、そこで寝泊まりしていますし、自衛隊は事前に行政側が幕営地を確保したうえで派遣を受けています。
 一般の被災地支援者は行政側に頼るわけにはいきませんので、早い段階で被災地支援に入るのならば、それなりの覚悟をしていかなければなりません。
 保温、食事、給水、排せつ、睡眠。
 自前でこれを確保できない場合には、被災地がある程度落ち着くまでは立ち入ってはいけません。
 被災地支援するための前提は、どこまで自己完結できているかです。
 被災地や周囲の状況を確認しながら、被災地支援に入るようにしてください。