トイレの問題を考える

 さまざまな災害がありますが、いずれの災害でも出てくる問題が「トイレ」と「水の確保」です。
 今回は災害時、そして被災後のトイレについて考えてみたいと思いますが、災害が発生したら、大前提としてトイレが使えない可能性が高いと言うことは覚えておいてください。そして、飲み食いは我慢できても排泄は我慢することが困難ですから、自宅や避難先のトイレ事情をまずは確認して備えるようにしましょう。

1.建物で違うトイレ事情

 一戸建て、二階建て、アパート、高層マンションなどなど、人が生活する空間はいろいろありますが、それぞれ対応が変わります。
 また、処理方法が下水管なのか、浄化槽なのか、それともくみ取りなのかによっても事情が異なります。
 基本はこれらのかけ算の数対応方法があるのですが、おおざっぱな対応は次のとおりです。

大前提)2階以上にあるトイレは使用禁止です。

テープで出入口を閉鎖したトイレ
災害が来たら、最初にトイレを閉鎖しないと汚物で大惨事となります
写真は消防科学総合センターのHPから転載。

 被災後、汚水管の安全が確認されるまではトイレは使えません。
 特に地震だと建物内部にある配管が外れていることが考えられ、その状態でトイレを使うと下の階に汚水があふれてしまいます。
 アパートやマンションで他者に損害が発生した場合、あとで損害賠償請求されることもありますので、くれぐれもご注意ください。

1)下水管で処理している場合

 洪水等で配管に泥などが詰まっていることが考えられます。施設の点検が完了するまでは、原則トイレは使えません。

2)浄化槽で処理している場合

 下水管と同じで、原則は施設の点検が終わるまでは使わない方が無難です。
 電気が来ている場合には浄化槽を機能させることができるため、トイレを使うことは可能です。ただし、洪水などで水没してしまった場合は浄化槽内には汚泥などが貯まっているので、清掃整備が終わるまでは使用できません。

3)くみ取り式の場合

 災害後も基本的には普通に使うことができます。ただ、洪水等の場合には汚物槽が水でいっぱいになっていますので、くみ取りが終わるまでは利用することができません。また、落ち着いたら汚物層が破損していないか点検をしてもらってください。

2.怖い逆流

洪水等水による被害の場合には汚水管から水が逆流してくることがあります。
そうなると便器から汚物混じりの汚水が噴き上げて、のちのちの片付けに支障をきたすことになりますので、便器の排水部分を塞いでおいた方が無難です。
そのため、便器の排出口を押さえるように水のうを積むことをお勧めします。
材料は大きくて丈夫なビニール袋2枚とひも、それに水です。

■水のうの作り方

材料:大きくて丈夫なビニール袋2枚、ひも、水
作り方:
1.ビニール袋を二重にあわせます。
2.1で作ったビニール袋に水を注ぎます。袋の7分目くらいまでなら入れても大丈夫ですが、持てる重さにしましょう。
3.注いだらひもで口を縛ります。ひもがなければ、注ぐ水の量を半分くらいにして袋の口を縛り上げます。
4.それを便器の排出口にしっかり乗るように置きます。水のうは一つ、ないし二つで十分です。

水のうは土のうがないときには土のうの代わりに使うこともできますが、土のう袋に比べるとビニール袋は破れやすいので取り扱いには十分気をつけてください。

3.トイレが使えないときのトイレ

 水のうを積んだり、水没したりするとトイレそのものが使えません。
 そんなときにでも排泄は止められませんので、仮設トイレが必要となります。
 いろいろな方法がありますが、ここでは2つほど方法をご紹介します。

前提)仮設トイレの考え方

 家族の状況によって準備するものが変わってきます。
 和式が使えない場合には、座ってできるような設備が必要となりますし、排泄物を無事に処理できることは当然として、排泄時にたとえ家族であっても見られないような装備も必要です。
 以前に「携帯トイレと一緒に持つもの」でも触れましたが、例えば着替え用に使うテントやポンチョなど目隠しできるものを準備しておく必要があります。
 小さなこどもが居る場合には、おまるを準備しておくのもよいと思います。
 そしてできれば一度使ってみて、使い勝手を確認して、自分や家族が使いやすい形にしていけばいいと思います。

座るタイプのおまるなら、ある程度子どもが大きくなっても使うことが可能

1)携帯用トイレ

 100均でも見ることの増えてきた携帯トイレを準備をしておくことをお勧めします。
 携帯トイレにもさまざまな種類があり、小用、大用、大小用、男性用、共用とありますので、家族構成によって準備するものを考えましょう。
 また、家族の一日のトイレの利用状況を確認しておいて、その3日分程度は準備しておくといいと思います。
 大小用の共用の中には組立式便座のついているものもありますが、これは持って避難するようなサイズではないので、家庭での備蓄品として備えておくといいと思います。

携帯トイレ各種
携帯トイレは大用もあるが、便座にセットするタイプが殆どのため、水害では使えなくなることもある。使い方を確認しておきたい。

2)トイレを作る

 トイレで問題になるのは「水分」と「臭い」で、これがなんとかなれば理屈上はどこでもトイレを作ることが可能です。

■おすすめは「猫の砂」

 お勧めは「猫のトイレ用砂」
 これは水分を吸収し臭いも取ってくれる作りになっていますので、これがあるとかなり快適な仮設トイレを作ることができます。
 使った後は大も小も周りに砂がついて固まりますので、固まったものをBOS等消臭効果の高いビニール袋にいれてゴミ袋に入れるだけ。
 基本的には可燃ゴミで処分も可能です。

■吸水ポリマーや新聞紙も使える

 また、携帯トイレやおむつなどにも使われている吸水ポリマーがあれば水を確実に吸収できますし、新聞紙もしわくちゃにして丸めることでそれなりの吸水量を確保することができます。
 ただ臭いについては完全に消すことができないので、排泄後は速やかに消臭効果の高いビニール袋に入れるくらいでしょうか?
 吸水ポリマーを使う場合には、可燃ゴミとして出せない場合もあるのでお住まいの自治体のゴミ処理担当課に確認をお願いします。

地震で汚水管が破損した可能性があるだけなら、トイレの便器にビニール袋をセットしてその中に猫の砂や吸水ポリマー、新聞紙を入れて排泄するという方法もある。

 トイレの問題は健康管理とも密接に関係しています。災害時だからこそ、トイレを我慢しなくても済みように、あらかじめ準備しておくことが大事ですね。

ろうそくと火災

 昨日は災害における死因について書きましたが、消防研究センターの調査によると、被災後に起きる火事の原因では、「通電火災」「ろうそくによるもの」「カセットコンロによるもの」「その他」に分かれるようです。
 最近は殆ど見ないような気のするろうそくが原因の火災が、消防研究センターから注意が出るくらいには起きているということで、今回はなぜろうそくによる火災が起きているのかについて考えてみたいと思います。

 最近でこそ電池式ランタンが普及していますが、ちょっと前までは普通にろうそくを使っていました。
 市販されている「防災缶」でも照明器具としてろうそくが入っているくらい、ろうそくは災害後の生活ではメジャーなものです。

市販の「防災缶」の中身。小型のペンライトと、背の低いろうそくが一緒に入っている。

 灯りだけでなくある程度の暖を取ることもできますし、なによりもろうそくの火は安心感を与えてくれます。
 非常にありがたい道具ではあるのですが、裸火であるが故に地震の際には非常に危険なものにもなるのです。
 地震ではしばらくは余震が続きます。重心の低いろうそくを使ったり、風防でろうそくを囲ったりと、いろいろと気をつけていても、強い余震がきたら飛んだりはねたり転がったりして、周囲にあるものに引火することがありますし、ろうそくは動かなくても、他の可燃物が倒れたり落ちたりすることもあるでしょう。
 他の災害時はともかく、地震ではろうそくに限らず屋内の裸火は危険であると言うことを覚えておいてください。

防災缶の中のろうそく。このサイズで3時間程度は燃えるらしい。
缶の表面に書かれている案内文には、たき火の火種にも使えるとある。

 ところで、災害備蓄ではランタンを勧めているのになぜろうそく火災が増えるのか。
 お仏壇があるようなお宅だと、たいがいろうそくとマッチが一緒に置いてありますので災害時にはそこから持ってきて使うということが多いようです。
 普段使わずどこにしまってあるかわからない電池式ランタンよりも、すぐに取り出せて普段使い慣れているろうそくを使うのはある意味で当然です。
 そうであるなら、例えばろうそくをしまってある場所に「災害の時はランタンを使う」という張り紙をしておいたり、ロウソクと一緒にランタンをしまっておいたり、家族で一緒に一年に一回くらいはランタンを囲む日を作ってもいいかもしれません。なんらかの形でランタンを意識し、使うという気にさせるような仕掛けを作っておけば、ろうそくを使う確率を下げることができるのではないかと思います。
 ろうそくは便利であるけれど、地震の時には屋内では使わない。その意識を持ってランタンを準備しておくようにしましょう。

地震あれこれ

 日本は地震大国だということはよく言われるところですが、あなたは地震についてどれくらい知っていますか?
 別に知らなくても困らないのですが、知っていると役に立つかもしれない地震の知識について、今回は整理してみたいと思います。

1.地震の種類

 地震とは、文字通り「地面が震える」ことで、大まかにわけるとプレート境界型と活断層型に分かれます。これがそれぞれどのようなものかということは、過去に「プレート境界型地震と活断層型地震」という内容で触れていますので、興味があったらリンク先をご覧ください。
理由はいろいろありますが、簡単に言うと何らかの理由で地球内部の力がぶつかる場所で起きるものだというイメージであればいいのかなと考えています。

2.震度とマグニチュード
 地震が発生すると、ニュースでは「この地震はマグニチュード4、震源は○○で深さは○○km。主な震度は、○○が震度4、××が震度2・・・」といった感じで伝えられることが多いですが、震度とマグニチュードの違いはご存じですか?
 「マグニチュード」は、地震そのものの大きさを表すものです。マグニチュードは1あがると強さが32倍になります。そのため、この計算で行くと地球上で起きる地震によるマグニチュードは10までだそうで、それ以上は地球が破壊されるレベルのエネルギーとなるため、地震としては想定しないことになっているようです。ピンと来ない方もいらっしゃると思うので、youtubeで「人の死なない防災」さんがアップロードしている「【マグニチュード比較】南海トラフの巨大さが体感できる動画」をご紹介しておきます。
 ともあれ、震源で起きる地震の強さを表すため、一つの地震ではマグニチュードは一つの表示となります。
「震度」は地震により発生した震動が伝わった場所の揺れの大きさを表すものです。距離や地盤の強度、震源の深さなどにより、同じ距離であっても異なる震度が記録されることが殆どです。

震源は一つなのでマグニチュードも一つ。同じ距離でも、様々な条件で伝わる振動が異なるため、震度は観測点の数だけ存在する。

マグニチュードの数値は一つしかなく、震度は観測点の数ほどあると考えておけば問題ないでしょう。

3.地震の揺れには周期がある
大きな地震になると、地面が殆ど揺れていないにもかかわらず、高層ビルが大きく揺れているような場合が見受けられます。
これは地震の振動が様々な波を持っていて、その揺れによるもの(揺れが一往復する期間を周期と呼びます)ためですが、大きな地震になるほどゆっくりとした周期の長い大きな揺れが発生するため、これを特に「長周期震動」と呼びます。
建物にはそれぞれ固有の揺れやすい周期というものが存在し、地震の周期と建物の揺れやすい周期が重なると共振現象が起きて建物が大きく揺れることになります。
建物が高層になればなるほど周期の長い大きな地震と共振しやすくなるため、より大きく揺れることになります。建物によっては数mの幅で揺れることも起こりますので、高層ビルの高い階はよりしっかりとした耐震対策を行う必要があります。
長周期震動については気象庁の「長周期振動について」でよりわかりやすく説明されているのでそちらを参考にしてください。

自宅避難と避難所避難

 災害が起きると、とりあえず避難所へということが一般的に広がっているなと感じますが、避難所の収容人員は、そのエリアの居住人口に対して100%を超えることはまずありません。
 これは全ての人が避難所へ避難して避難生活を送るという想定では無く、基本は自宅で過ごし、何らかの理由で自宅に住めなくなった人だけが避難所に避難してくるという想定になっているからです。
 それに対して、避難場所はその地域の全ての住人を収容できるだけの数値を持っているはずです。避難場所は災害が発生している間一時的に避難をするところであり、生活するところでは無いという想定のためです。
 自宅が無事であれば自宅で生活をしてくださいというのが、行政の持っている災害に対する避難計画の基本的なところになりますので、防災を考えるときには、まず自分の家が安全かどうか、どのような災害では避難しないといけないのかということを確認しておかないといけないでしょう。
 行政の作っているハザードマップを見ると、洪水、津波、内水面越水、地すべり、急傾斜地などは全て記入されていますので、それを確認して避難すべき地域なのか家にいた方が安全なのかについて確認をします。
 次に、家が耐震構造になっているかを確認します。昭和58年が一つの境と考えて、それ以前の建物であれば木造は必ず耐震診断を受けておきましょう。家にいるときに地震が来て下敷きになってはなんにもなりませんし、家が崩れてしまったら自宅避難をすることもできなくなります。耐震診断を行うときには、市町村の補助がもらえる場合がありますので、やる前には市町村の建築担当課に相談をされるといいと思います。
 最後に、家の中の耐震対策をしておきましょう。揺れてものが倒れたりしないようにしっかりと固定し、自分や家族が下敷きにならないようにしておきます。少なくとも、寝る部屋とふだん過ごす場所だけはできるだけものを無くして揺れても安全が確保できるようにしておきます。
 とりあえず自宅を避難所として使うことが可能になっていれば他人に気を遣うこと無く自分のリズムで生活が出来るので、被災後のストレスも軽くすることができます。
 ところで、避難所のうち指定避難所は行政が被災後の物資や支援の供給場所としての機能も持たせています。
 ただ、この避難所に避難していないと物資や支援が受けられないということではないことに、避難所運営する側は注意してください。自宅避難者も避難者ですので、災害時の物資や支援の供給は当然受けられます。避難所に避難していないことを理由に物資や支援の供給を拒むことはできませんので気をつけておきましょう。
 理想は自宅避難で物資や支援だけを供給してもらう体制を作っておくことです。
 自分が命を繋げるように非常用備蓄品を準備しておくのはもちろんですし、なるべく自立していることが理想ではありますが、自宅に避難しているからといって避難所の物資や支援を受け取ってはいけないと難しく考えると普段使いできないくらいの非常用備蓄品となってしまいますから、使えるものは使うことを前提にして、さまざまな準備をするようにしてください。

活断層を見てみよう・浜田沖他海中断層

 ずいぶんと前に弥栄断層についてご紹介したことがありますが、島根県の作成した「地震・津波被害調査報告書(概要版)」では、海の中にある海中断層についても触れられています。今回はその海の中にあるとされる活断層をいくつかご紹介できればと思います。

波子海水浴場から浜田市の沖合を望む。

 まずは浜田沿岸にある活断層から。ここは過去の地震の記録から地震が起こりうる場所として設定されています。
 さて、この活断層が動いた場合にどうなるのかというと、想定ではマグニチュード7.3、震度6強となっています。 

国府海水浴場から沖合を望む。

 次に浜田沖合断層。この地震は発生するとマグニチュード7.3が推定されています。ここの設定は1872年に起きた浜田地震の震央部で再び起きるものとして想定されています。浜田地震における推定マグニチュードは7.1。最大震度は、気象庁の公開情報では不明となっていますが、震度7程度ではなかったかという資料があります。
 割と最近の地震ですのでさまざまな記録が残っていますが、海岸が隆起して畳ヶ浦の誕生と小規模な津波の発生はあったようです。
 なお、この畳ヶ浦は浜田の観光地の一つで、非常に面白い地形をしていますので一度見学に訪れてはいかがでしょうか?

また、海で起こる津波の到達時間は益田市土田漁港に到達するまでが22分、最高水位が1.22mとなっています。

 この他にかなり大きな断層として島根西方沖合(F57)断層が確認されていて、ここが動くとマグニチュード7.5、震度6弱、津波は益田市土田漁港に到達するまで47分、最高水位が3.48mと予測されています。
 いずれにしても海底活断層が動いた場合にはもれなく津波もついてきますので、震源が海底である場合には速やかに高台に避難することが大切です。

 なお、詳しい情報が知りたい方は、「島根県・地震被害想定調査報告書」のウェブページをリンクしておきますのでご一読ください。

ものの置き場所と導線

 家に限らず、人がいるところでは知らないうちにものが貯まっていくものです。
 よく使うものは自然と置き場も決まってきて、そこにないと「どこへ行った?」と探すことになったりします。
 ただ、その置き場は自分が避難するときに支障になりそうな場所や状態ではないかどうか、一度確認してみてください。
 最近は意識してものが置かれないようにしている施設が多いですが、一昔前には非常口の前に仮置きの段ボールや箱、いろんな道具が置かれていることがよくありました。
 非常口の意味はみんな知っているし、いざというときに使えないとこまるものという認識ももちろんあります。
 ただ、「とりあえず置いた」という仮置きが、いつの間にかそこがものの置き場所になってしまっていた結果、非常口が使えなくなっているという状態になっていたのです。
 確かに、普段使われない非常口の周辺はいつも何も置かれていないので、ものを置く場所を探している人にとっては絶好の置き場所に見えてしまいます。
 でも「ちょっとだけ」置いたが最後、気がついたらそこが定位置になっていたりして、非常口が本当に必要なときに使えない状態になってしまっているのです。
 これは一般家庭でも良くある話で、ちょっとした空間が空いていると、つい本棚やタンス、食器棚や箱などを置いてしまい、地震の時にはそれらが倒れて通路を塞いでしまい脱出不能になってしまう事例は、あちこちで見られています。
 それを防ぐためには、まずは人の移動する線、導線がどのようになっているのかを確認し、その導線を妨げないようなものの配置をすることです。
 そして確保しなくてはいけない空間は、ものを仮置きをさせないように、そこが物を置いては行けない場所であることを意識させることが大切です。
 よくデパートなどで非常扉の可動範囲の床が赤や黄黒のしましまなどで派手に塗られていることがありますが、そうすることでそこに物を置いてはいけないということが意識できるようになっているのです。
 家庭でこれをやると、ちょっと殺伐とした雰囲気になるかもしれませんが、玄関マットを敷いたり、シートやラグを敷くことでものが置かれるのを防ぐことはできると思いますし、仮置きの場所というのを導線から外れた場所に作ってもいいかもしれません。
 必要なのは、自分が普段どのような場所を通っているのかということと、万が一のとき、その移動経路を妨げるようなものがないようにしておくということです。
 部屋に閉じ込められてしまって、せっかく災害では助かったのに餓死してしまったなどということがないようにしておきたいものです。

地震の時のポーズあれこれ

 「地震が起きたらダンゴムシ」というのは結構有名になってきた地震のときの姿勢ではないでしょうか。

机の下でダンゴムシ
ダンゴムシのポーズは体の重要な部分の防護と転倒防止のためにするものです。

 うずくまって両手で頭と首を守るこの格好は、落下物から重要な部分を守り、その上で転倒をしないという意味で非常に理にかなっていると思います。
 また、学校の教室などでは、机の下に潜って両手で机を支える「アライグマのポーズ」というのもありますが、これは使っている机によっては逆に怪我をしてしまったりすることもありますので注意が必要です。
 これらの姿勢を取る練習としてよく「シェイクアウト訓練」というような言い方をしますが、そもそもなぜこのような姿勢を取る必要があるのかを考えたことがありますか?
 第一には頭を護ること。判断し行動するためには正常な判断が下せる状況であることが大切ですから、これは必須です。
 次に、怪我をしないこと。特に地震の際には転倒による怪我がよく起きます。ちょっと大きな地震が起きると、転倒による骨折で救急搬送というニュースが必ずといっていいくらい流れますが、これを防ぐには転倒しないようにすることしかありません。なるべく重心を低くして転がりにくくすることが大事です。
 例えばよく転倒事故の起きる階段では、揺れ始めたらその場でしゃがみ、あれば手すりをしっかりと持つ。これだけで転倒する可能性はずいぶんと低くなります。
 また、地震への対応策として「地震が起きたら外へ逃げろ」というのがありますが、揺れているときにはまず移動できませんし、無理矢理に移動することはかなりの危険を伴う行動です。耐震補強され、転倒防止、落下防止対策がきちんとされているところであれば、自分が転がらないような姿勢を保てさえすれば、怪我をすることはないと思います。
 ところで、先日ちょっと考えさせられることがありました。
 外での避難でもダンゴムシのポーズを取りなさいという内容の本だったのですが、地震が起きると、砂やほこりが宙を舞います。建物の中であれば問題ないと思いますが、校庭や公園などの土の地面が露出している場所だと、揺れてる最中に砂煙が起こります。そんな状態の時にダンゴムシのポーズを取っていたら、目や口に砂やほころが入り込んで体にダメージを受けてしまいます。
 ダンゴムシのポーズは「落下物対策」と「転倒防止」のためのものです。もしも外にいて上や周囲からものが落ちたり飛んできたりしないのであれば「落下物対策」は必要ありません。そうすると「転倒防止」だけに集中すればいいわけですから、仰向けの大の字で寝たり、両足を拡げて腕をつき状態を支えるような格好で転がることを防げれば充分だということになります。
 非常時、場所によってポーズを変えるのは大変だからということで、学校や保育所、幼稚園などの教育施設では一元的に「地震が起きたらダンゴムシ」と教えることは大切だと思いますが、それによって体を痛めてしまっては何にもなりません。なぜその格好をするのかを考える必要があると思います。

メタボパンダのポーズ。大の字に寝転がるのでも大丈夫だと考えていますが、背中を浮かせている方が揺れで受けるダメージは小さい気がします。

 当研究所では、外での転倒防止の格好は「足を大の字に拡げて上体は起こし、両腕は地面を支える」のが一番良いのでは無いかと考えています。これを「メタボパンダのポーズ」と呼んでいるのですが、あなたならどんな名前を付けますか?

家具の転倒防止は最初の一歩

 少し前に建物の耐震診断と耐震補強について触れましたが、建物に問題が無くても家の中で人が下敷きになってしまうものが家具です。

転倒防止用の支柱と壁と家具を貼り付ける不動王の組み合わせ。これ以外にもいろいろな装置や方法があるので、家の構造と家具の状態を考えて固定しよう。

  「防災の備えは、まず家具の固定から」と言われることも多いのですが、市内のホームセンターに出かけて転倒防止器具のコーナーを覗くと、あまり商品が動いているような気配がありません。
 お店の人に聞いても「大きな地震があったときはちょっと売れますが、それ以外は・・・」と苦笑される状況です。
 地域の歴史をさかのぼってみると、津和野町や吉賀町では震度6強の地震が何度も起きているのですが、そこまでしっかりとした家具の転倒防止対策をしているおうちがどれくらいあるのかなと考えてしまいました。
 大きな地震では、一番怖いのは家具の転倒によりその下敷きになることです。特に山間部の一軒家で一人暮らし状態のおうちも多いこの地域では、家具の転倒で下敷きになったら助けは来ないかもしれません。
 そのため、まずは家具類の転倒防止をしっかりとしておきましょう。とっさの時に動きが取れない寝室には、家具は置かないこと。
 そして台所の冷蔵庫や食器棚はしっかりと固定をしておくことです。
 地震だけは来る予兆がわからないので、いつきてもいいように準備だけはしておくことです。
 そして、転倒防止器具の取付はそう難しいものでもありません。
 できれば異なる方式のものを二つ以上備え付けておくことで、家具がひっくり返るのを止めたり、止められなくても逃げる時間を稼ぐことくらいは可能になります。
 さほど値段も高くなく、確実に命を守ることが可能になる転倒防止器具の取付をきちんとしておきましょう。

やっていないことはできない

ポンチョ着用
豪雨の中を非難するときには傘は役に立たない。帽子と雨合羽、それに運動靴を身につけての避難となることに注意しよう。

 梅雨に入ってからあちこちで集中豪雨の情報が出ています。
 今この瞬間にも、避難勧告や避難指示といった避難レベル4の情報が出ている地域があります。
 もしもそれがあなたのお住まいの地域だったとして、あなたのお住まいの場所は水害や土砂災害に強い地域ですか?
 避難が必要だとしたら、どの段階で何を持って誰とどこへ避難するかを決めてありますか?
 それが昼間でなく、夜だったとしたらどうでしょうか? 家にいるときだけで無く、仕事先や出かけた先でそうなったら?
 その状況になってからでも間に合うと、もしもあなたが思っておられるとしたら、それは大きな過ちです。
 災害が起きそうになったとき、通常時と非常時の切り替えというのはなかなかできないもので、あらかじめ決めておかないと、判断に迷っているうちに手遅れになってしまうことがよくあります。
 周囲に水がやってくる前に避難を開始しなければ、安全な避難はできません。
 もしも家の周囲に水があふれ出したなら、域外避難を諦めて、二階や屋根の上に逃げ出す垂直避難をするしかありませんが、垂直避難した後、水が引くまで待てるだけの備えがあるでしょうか?
 避難をするとしたら、どの経路をたどってどこへ避難しますか? そしてその経路は水に対して安全ですか?
 低地だったり、川になるような場所は通っていませんか?
 避難をしなくてはいけないときというのは、いつもとは異なる状況になっていることが殆どです。
 そして、いざ避難となって歩こうとしても、普段歩き慣れていない経路だと、どこに危険があるのかもわかりませんからどうしても動きが遅くなり、避難が間に合わなくなる可能性だってでてきます。
 いざというときに備えた避難の練習や避難場所の選定、そして避難するときに持参するものを収めた非常用持ち出し袋。
 これらを繰り返し確認し、練習しておくことでいざというときにも考えずに行動ができます。
 人間、やっていないことはできません。
 避難が必要の無い場所にお住まいならともかく、そうでない場合には、年に1~2回は避難の練習をしておきましょう。
 馬鹿馬鹿しいと思うかもしれませんが、その積み重ねが結局自分の命を守ってくれるのです。

寝るスペースは安全に

 災害発生時に生き残るための準備はしておかなくてはなりません。
 いくら被災後に使える非常用持ち出し袋を準備したところで、例えば地震でタンスや家具の下敷きになってしまっては生き残る確率はかなり下がってしまうことになります。
 特に寝ているときに地震が起きると、体が完全に目覚める前に家具の下敷きになる可能性が高いでしょう。
 少なくとも「背の高いタンスは寝室には置かない」「重たいものは床に近いところに置く」「頭の上にはものが落ちてこないようにしておく」くらいの対策はしておく必要があるでしょう。
 建物が耐震強化・耐震対応していても、中の家具が倒れないようにしていなければ、家で潰れなくても家具で潰されることになります。
 そして、残念ながら家具はいくら固定していても絶対に倒れてこないという確証は持てませんので、寝室には物を置かないということが鉄則です。
 また、エアコン本体や照明の真下、窓ガラスのある場所には頭が来ないようにして、万が一の時に頭を怪我しないようにします。
 何があっても最初に死なないこと。そのための準備をきちんとしておきたいものです。