備蓄品と非常用持ち出し袋と防災ポーチ

災害に対するストックの考え方として「備蓄品」「非常用持ち出し袋」「防災ポーチ」の3種類があります。

奥の箱は備蓄品の一部。中程のリュックサック2個は非常用持ち出し袋、そして一番手前が防災ポーチ。用途によって備えが変わる。

 「備蓄品」は読んで字のごとく備蓄しているもので、家庭単位で準備しておくものです。通常の食料や水と併せて5日~7日分程度のストックがあると急場を凌げますので、普段使いのものを少し多めに備蓄しておけば間に合うと思います。
 「非常用持ち出し袋」は基本的には、老若男女問わず各個人毎に準備しておくべきものです。眼鏡や入れ歯、常備薬や電源など、人によって必要とされるアイテムは異なりますので、それぞれがそれぞれのアイテムを1~3日分持ち歩けるようにしておきます。乳幼児のいる家庭では、こどもをおんぶするとリュックサックが背負えませんので、非常用持ち出し袋に準じた防災ベストを作っておくと助かります。
 防災ポーチは、出先で災害にあったときに安全が確保されている場所まで移動するために必要な最低限のものをセットしたものです。
 これも個人によって違いますが、ポーチに入る大きさに応じて準備しておくようにしましょう。
 よく言われる非常食の準備ですが、例えばアルファ米や缶パンなどは非常用持ち出し袋にセットしてあればいいと考えます。ご家庭の備蓄品として普段使いするには値段が高いですので、数日分を数ヶ月から年に一度程度使って入れ替えるようにすればいいと思います。
 備蓄品はあくまでも普段過程で使っているものの延長線上にあるものにし、防災ポーチは移動中に消費するカロリーを補填できるようかんやあめ玉、チョコレート、ナッツ類といったものを考えておけばいいでしょう。
 似たような性格のアイテムですが、使い方や目的がそれぞれ異なっていますので、あまり無理をしない程度に準備していけばいいなと思います。
 一度に揃えられない場合には、まずは備蓄品。それから防災ポーチ、非常用持ち出し袋の順番で備えていけばいざというときにもさほど困ること無く生活ができると思います。ただ、津波などで緊急避難が必要な地域にお住まいの場合には、非常用持ち出し袋の優先順位を一番にしておいてもいいと思います。
 ともあれ、被災後の自分の命と生活を守るための備蓄品、非常用持ち出し袋、そして防災ポーチ。
 準備して、いざというときにきちんと使えるようにしておきたいですね。

簡易トイレを考える

携帯トイレ各種
携帯用トイレ。さまざまな種類が出ているが、準備するなら使用用途をよく読んで準備すること。男性の尿用ばかり買うと、大きい方や女性がするときに困ってしまうことがある。

 非常時に1番問題になるのはトイレです。
 特に二階以上の居宅や下水道が普及している地域では、災害後には使えることの確認が取れるまではトイレは使わないことが求められています。
 最近では随分と簡易トイレが普及してきましたが、下水配管や下水道が復旧するまでの期間を考えると、かなりの量の備蓄が必要となります。
 また、使用の終わった簡易トイレから出るゴミの問題もあります。ゴミ収集がすぐに再開すればよいのですが、そうでない場合にはゴミの保管方法を考えておかないと、不快害虫が大量に発生する温床にもなりかねません。
 実はトイレの問題には絶対的な正解がありません。
 下水に流さない、回収してゴミとして保管するという基本は同じですが、個人の考え方や生活様式によって受け入れることのできる正解が異なってくるからです。
 例えば、万が一にも下水に漏れ出したり、他の階からの排泄物が逆流してくるのを見るのがいやだと言うことでおむつが良いという人もいるでしょう。絶対にトイレで用を足したいという人もいると思います。

ビニール袋と新聞紙で作った簡易トイレを便器に収めたところ。量が少ない場合ならこれで十分対応が可能。新聞紙は吸水性と脱臭性の能力が圧倒的に高い。ただし、かさばるのでゴミもたくさんとなる。

 排泄というのは非常にデリケートであり、そして生きている以上は絶対に避けて通れない上に止めることができないというやっかいなものです。
 可能であれば、平時にいろいろと試してみてどういうやり方が自分に向いているかを見定めておく必要があると思います。

プラスチックのバケツとビニール袋、ねこのトイレ砂で作った簡易トイレ。ねこ用だけあって、吸水性、脱臭性はどれも優れている。ただ、新聞紙同様ゴミがかなり嵩張るのが難点。また、ねこがいないお宅では平時は非常に邪魔になる。

 いざというときには、普段やっていることの延長線でしか行動することができないものです。
 トイレの問題は見たくないし試したくないことだとは思いますが、いざトイレが使えなくなってから悩むのでは遅すぎますから、しっかりと考えて準備しておきたいものです。

常備薬をどうするか?

お薬手帳の表紙
よくあるお薬手帳。スマホ用アプリも出ているのでそれを使うのもいい。

 さまざまな持病を持っていて、普段の生活で薬が必要な人はそれなりにいるのではないでしょうか。
 大規模な災害が起きると、医療設備が破壊されたり使えなくなったりします。
 医療者はいても資機材がなければ医療処置はできませんから、本格的な医療行為は資機材がそれなりに手当てされてからのことになります。
 さまざまな薬の流通が再開されるまではそれなりに時間がかかるので、その間に薬により病気の重篤化が防げていた人の病状はどんどん悪化していくことになります。
 そんなことにならないように、持病を持っている人は自分が避難するときに備えて薬を1週間程度備蓄しておくことと、万が一に備えてお薬手帳のコピーを持っておくことをお勧めします。

 筆者も持病を持っていますが、あらかじめかかりつけ医に相談をして、1回だけ1週間分多めに処方してもらっておき、薬をもらうたびに入れ替えていくローリングストックで使用期限を維持しています。
 もしも薬が切れた場合でも、お薬手帳を見ればどのような薬が処方されていたかわかるので、逆説的にその人の病気がわかることになり、医師であれば適切な処方をすることが可能になります。
 最近ではスマホなどのアプリでも電子お薬手帳がありますから、そういうのを利用すれば荷物を増やさずに自分の医療情報を持ち歩くこともできます。

 特殊な薬が必要だったり、特定の医師が診た方がよい病気だったりするなら、平時にかかりつけ医以外でその病気を見ることのできそうな医師をかかりつけ医に確認しておくことが大切です。
 持病のある人やさまざまな理由で医療支援が生活の一部になっている人は、被災したら速やかに被災地域外に広域避難して、自分の病気が悪化しないために被災していない医療機関に支援をしてもらってください。
 そうすることで、自分の命を守ることができるだけでなく、被災で医療体制が悪化している被災地の病院の負荷を減らすことができます。
 今の日本ではなかなか広域避難という発想にならないかもしれませんが、万が一に備えて、準備だけはしておくようにしたいですね。

今日は救急の日です

 今日は9月9日。救急の日です。マスメディアでは救急車や夜間救急外来の利用者の増大で救急救命体制が破綻するような話をしていますが、どうしてそうなるのかについては「不要不急の利用者が大勢いる」との一言で済ませています。
 救急や夜間救急外来に関わる人を困らせてやれとか、空いている夜間診療でどうしても受診するというような悪質な確信犯はともかく、自分のしている行為が緊急性がないものであるということが理解できていないのかなという気もします。
 救急とは「命の危険を有する緊急性のある状態の人」を優先して助けるための行為であり、夜間救急外来はやはり「命の危険を有する緊急性のある状態の人」の命を救うために存在しています。
 逆に言えば、命の危険が無いのであれば救急車や夜間救急外来は使ってはいけないということになります。
 ただ一つ問題になるのは、自分がどんな状態になったなら「命の危険を有する緊急性がある状態」なのか殆どの人が理解していないということでしょう。
 理解していないので、命の危険を感じる幅がものすごく広くなって、「なぜ早く来なかった!」と怒られる人から「こんなことで利用するな!」と怒られる人まで出てくるのです。
 緊急性を有する状態を理解することは少し難しいかもしれませんが、普段から自分の体調を意識していれば、現在がどんな状態なのかと言うことはある程度理解できると思っています。また、持病があるなら悪化したときにどうなるのかを知っておくことで、早めの対策を打つこともできます。
 自分の身体のことに興味を持ち、状態を意識しておくことで、緊急性のある状態に陥る前に受診することができ、救急や夜間救急外来に余計な負担をかけなくても済みます。
 余談ですが、病院の夜間救急外来の当直医は救急専門か、またはさまざまな診療科の医師が順番で受け持つことが多いため、緊急処置以外のことに専門性はありません。あくまでも緊急時の処置をするために待機しているので、慢性疾患などで誤診があったからといって怒るのは筋違いです。
 命の危険がない場合には、専門医に医療機関の受診時間内に受診しましょう。そちらの方が正確で安全です。

水分の取り方

 先日、スポーツドリンクと経口補水液について違いを書かせていただいたところですが、ある方から「普通に水を飲んでも熱中症にはならないでしょう?」というご意見をいただきました。
 確かにそのとおりです。ただ、普通のお水でも飲み方によっては「水中毒」と言われる症状を引き起こすことがあり、暑い時期の水分摂取では少しだけ気をつけないといけないことがあるので、今回はそれを踏まえて、もう一度水分摂取の方法について考えてみたいと思います。

 汗をかいたときに何も水分を摂取しないと脱水症状を起こします。それにより体温調節機能が損なわれた結果熱中症になりますので、運動をしていようがじっとしていようが、汗をかくようであれば水分はしっかりと摂取する必要があります。
 脱水症状というのは、体の体液が不足して体の中の調整がうまくいかなくなる状態を指し、放っておくと命の危険があります。
 ただ、激しい運動や屋外の作業をしているので無い限り、普通の水をこまめに飲めば脱水症状を防ぐことが可能です。熱中症及びその前段となる脱水症状を防ぐために、しっかりと水を飲むようにしましょう。
 さて、最初のところで「水中毒」と言ってはいますが、別に水を飲んだら中毒症状が起きるというわけではありません。
 汗をかくと、汗に混じってナトリウムなどのミネラル分も体外へ出ていきます。この状態で水だけを補給し続けると血中に残っているナトリウム分がどんどん薄くなって、けいれんや意識障害といった症状が起きます。
 これを「水中毒」と言い、それを防ぐためにナトリウムなどのミネラル分が入っているスポーツドリンクや経口補水液が夏場は推奨されているのです。
 では、スポーツドリンクや経口補水液に頼らず、水だけでうまくやる方法はというと、これは「こまめに水分を適量取りましょう」と言い方になります。
 喉が渇く前にコップ1杯程度の常温の水をゆっくりと飲むこと。そして食事はきちんと摂取すること。
 「水中毒」は「失われた水分の急激な摂取+ナトリウム分の不足」で起きるわけですから、失われた水分を水で摂取する場合、もう一つの失われたナトリウム分をどこで補うのかということになりますが、これは食事を普通に摂取すれば充分カバーできます。
 減塩食などの場合には別ですが、基本的には日本人の食事は塩分が多めだと言われていますので、普通に食事ができていればナトリウム分の補充は充分に可能です。
 ちなみに激しい運動や炎天下での屋外作業では、汗による水分とナトリウム分の喪失が急激に起きるため、それを同時に短時間で体内に吸収摂取できる工夫がされているスポーツドリンクや経口補水液が推奨されているのです。
 普通に考えるとあまり起きそうにない水中毒ですが、例えば気づかない間に脱水症状を起こしてしまって意識がはっきりしない状態の時に「水を飲め」と言われて水を飲み続けた場合、若しくは炎天下にいた人がおいしいからといって冷たい水を一気に大量に飲んだりすると発生しますので、飲み方に気をつける必要があります。
 そういえば、夏の風物詩の一つ「スイカに少しの塩」や運動部でよく見た「麦茶に塩」は水分やナトリウムなどのミネラル分をしっかりと摂取することができ、よく考えられているのだなぁと調べているうちに感心したことを思い出しました。妙に見えても、きちんと理にかなったことをしているのですね。
 最後に、糖尿病などの糖質制限や減塩指導されている方は、水、スポーツドリンク、経口補水液の摂取方法に注意が必要な場合がありますので、いろいろと自分で考える前にかかりつけのお医者様に確認して脱水症状を起こさないような水分補給をしていただければと思います。

新型コロナウイルス第2波到来?

 新型コロナウイルスが島根県内でもじわりと広がってきている感じで、松江市ではクラスタが、そして県西部の益田市でも新規で感染者が報告されています。
 相手はウイルスなので100%の防御をすることはできませんが、それでもある程度の防御を行うことは可能です。
 現に同じコロナウイルスが原因の一つである普通の風邪は手洗いとマスク、そして飛沫感染防止対策を取ったことで感染者が激減したことは知っておく必要があると思います。6月頃に新型コロナウイルスに変異が起きてそれから後現在の流行が始まったとみられていますが、基本的な防御方法は変わらないと思います。

1.手洗いは石けんを使ってしっかりと手や手首を洗うこと。

 アルコール消毒はあくまでも流水による手洗いができない時の代替手段であり、使ったからといって確実に大丈夫だと言えない場合があることを意識しておいてください。

2.不用意に人が触りそうなものに手を触れないこと。

 新型コロナウイルスは生存性がかなり高いウイルスで、一般的に店舗で売られているような商品の表面だと、数十時間や数日は感染する可能性があることを知っておいてください。
 商品に触るのはその商品を買うときだけにしておいたほうが無難です。

3.人と会うときや人の多い場所に行ったり通過したりするときにはマスクを着用すること。

 マスクは基本的に感染しないためでは無く感染させないために着用しますが、お互いにマスクを着用することで安全度を高めることができます。
 時節柄暑いのでマスクをつけたくない場合には、人と会ったり直接顔を見て会話することは避けましょう。

4.飛沫感染防止対策をしっかりと意識すること。店舗では対策がしっかりとできているところを選ぶこと。

 消毒をしっかりとしていても、唾液やつばからもウイルスは感染しますから、向かい合っての会食はしないことや、距離をしっかりととること、飲食中以外はマスクをしっかりとつけて大声を出さないことなども非常に大切です。

 人間は基本的に群れる生き物ですので、いつかどこかで誰もが感染する可能性はずっと続きます。
 新型コロナウイルスの免疫取得がせいぜい数ヶ月くらいだという中国の報告を考えると出来上がるワクチンでも完全に防ぐことは難しいのではないかという気もしますが重篤化を防ぐという視点で見ると早くできあがってほしいと思います。
 繰り返しになりますが、誰もが新型コロナウイルスには感染する可能性があります。感染しない努力は必要ですが、感染するかしないかはこれだけ人が動いていると運任せの要素が非常に強いと感じています。
 感染者や家族を執拗に探して攻撃をするよりも、まずは自分が感染しないような対策をとり続けることが重要ですから、手洗いとマスクと飛沫感染防止対策をもう一度見直して徹底した方がいいと筆者は思っています。

 もしも風邪の症状があるなと感じたら、かかりつけのお医者様に出向く前に、お近くの新型コロナウイルス関係相談窓口(島根県の場合はしまね新型コロナウイルス感染症『健康相談コールセンター』)へ電話して指示を仰ぐようにしてください。

参考リンク

新タイプの遺伝子配列、ウイルス6月に出現」(読売新聞8月8日電子版)

新型コロナ回復患者の抗体水準、2-3ヶ月で急低下」(ニューズウィーク日本版)

新型コロナウイルス感染症関連情報」(益田市役所)

新型コロナウイルス関連の電話相談について」(島根県)

スポーツドリンクと経口補水液

スポーツドリンクと経口補水液の代表例。薄めて飲むと効果も薄まるので注意。

 暑い季節になりました。猛暑日や熱中症という言葉が飛び交っていますが、あなたの体調は大丈夫ですか。
 屋外や狭い場所、高温になる環境などで作業をしなければならない方は、体温管理と水分補給には充分に気をつけてください。
 さて、そのときに気になるのがスポーツドリンクと経口補水液の違いです。
 両方とも汗をかいたときに、その汗に含まれる水分だけでなく塩分やミネラル分などを補給するように作られている飲み物なのですが、この違い、ご存じですか。
 簡単に言うと、糖分とナトリウムなどの塩分(電解質)の量が異なっています。
 スポーツドリンクは水分、ミネラル、塩分、糖分をバランスよく配合したもので、経口補水液と比較すると塩分は少なく、糖分は多めに作られています。
 スポーツドリンクの名前のとおり、激しい運動での水分や栄養補給であれば向いていますが、単に汗をかいているだけの場合には、糖分過多になりやすいです。
 経口補水液は脱水症状の時に塩分や水分を補うために作られていて、身体への吸収を考えて糖分は控えめです。塩分が高いので、飲み過ぎると塩分過多になってしまうことがありますので、塩分やカリウムなどに摂取制限がある場合にはかかりつけ医に飲む前に相談してください。
 どちらにも一長一短があり、対象とする人や飲み方によって飲んだ方がいいものは異なってきます。
 スポーツドリンクにも経口補水液にもさまざまな種類があってそれぞれ向いている用途がありますから、悩んだときには医師や薬剤師などに相談してみるといいと思います。
 どちらを使うにしても、のどが渇いたと感じたときには脱水症状が始まっていますので、こまめに少しずつ飲むことをお勧めします。
 また、アルコールやカフェインが入った飲み物は利尿作用によりかえって脱水症状を助長してしまうことがありますので注意してください。
 ちなみに、経口補水液は家庭でも作ることができますので、レシピを紹介しておきます。

材料

水1リットル
砂糖40g(大さじ4と1/2杯)
塩3g(小さじ1/2杯)

作り方

上の材料を混ぜる。しっかり混ぜたら出来上がり。
※酸味が好きな方は、レモン汁を小さじ1杯加えるとさわやかになります。

手洗いと衛生概念

 災害時に避難所で衛生的な環境を維持するのは非常に困難です。
 ですが、通常時よりも人が密集して集団生活を行う環境であることから、災害時の避難所は通常時以上に衛生的な環境を維持するための努力をしなければなりません。
 ただ、こういった非常時にはその人の行動が先鋭化してくることに注意が必要です。
 特に衛生的な環境を維持するための基本である手洗いを見るとよくわかります。普段あまり手洗いしていない人はこれ幸いと手洗いをしなくなりますし、これでもかと手洗いする人は消毒液を持ち歩くような状態になってきます。
 衛生的な環境を維持することで、避難所内での感染症の流行をできるかぎり押さえるようにすることは、避難所運営の中でかなり上位に位置する仕事です。地域医療に過度な負担をかけないためにも、衛生管理は徹底しなければなりません。
 清潔な水を確保することはもちろんですが、石けんや消毒液の準備、ドアノブや手すりなどの定期的な消毒、トイレ掃除など、衛生管理はいろいろとあるのですが、手洗いという点で考えると、どんな人でも手洗いをしなければならないような仕掛けを作っておく必要があります。
 例えば、避難所に出入りする動線上に必ず手洗い場があるように設計しておくことや、出入り口に大きな手洗いの掲示をしておくこと、館内放送で手洗いをするように働きかけることなど、その避難所に応じてさまざまな方法があると思います。
 一つ有効なのは、子ども達に手洗いをしっかりとさせること。大人というのは不思議なもので、子どもが正しいことをやっているとなぜかそれをまねする人がたくさん出てきます。
 それを利用して手洗いを習慣づけるようにしていくのです。
 最近はやっている新型コロナウイルス対策でも、手洗いは最上位にくるような感染対策になっていますし、手洗いをしっかりするだけでかなりの感染症を減らすことが可能だと言うことを、マスクの入手が困難となった今回のコロナウイルス騒動は教えてくれました。
 避難所において感染症の大流行を防ぐためにも、手洗いだけは徹底しておきたいものです。

【参考】上手な手洗いの方法(厚生労働省のウェブサイトに移動します)

抗菌・殺菌・滅菌・除菌

 昨日の「紛らわしい」つながりになりますが、今回はよく出てくる抗菌、殺菌、滅菌、除菌の違いについて説明してみたいと思います。
 結構混同や誤解をしていることが多い内容なのでよかったら参考にしてください。

1.抗菌

 抗菌は菌を増やさない状態を言います。手すりやドアノブ、便座などによく「抗菌仕様」と書かれているのは、菌を増やさないという効果を謳っているだけで、菌はそこにいます。繁殖しにくいだけと考えてください。

2.殺菌

 文字通り菌を殺すことです。煮沸や消毒液、界面活性剤などを使ってウイルスや細菌を物理的に殺すことを言います。

3.滅菌

 全ての菌やウイルスが死滅もしくは除去された状態を指し、日本薬局方では標準状態と比較して100万分の1以下の量にまで殺菌処理されたものを言っています。
 ただ、滅菌処理されたものに滅菌をする効果は無いことに注意してください。

4.除菌

 ある特定の場所やものから最近やウイルスを除去することです。除去することが目的なので、殺菌や滅菌されているかどうかは問われません。

 似たような言葉なのですが、強さとしては「抗菌<除菌<殺菌」となり「滅菌」は別枠となります。
 また、殺菌にきちんとした定義はないようなのですが、薬事法により表示できるものが医薬品及び医薬部外品に限定されているため、殺菌効果があるものでも除菌となっているものが存在します。
 現在新型コロナウイルス騒動で消毒が注目されていますが、言葉の違いを意識しておかないと思ったのと異なることが起きてしまうことがあります。
 表示されている内容を確認し、自分の目的に合った製品を選べるようにしてくださいね。

消毒あれこれ

 消毒薬についてはいろいろとあるのですが、今回のコロナウイルス騒動を見ていると、かなりあちこちで混乱が起きているような気がします。
 今回は間違いやすい消毒液についてちょっとだけ触れてみたいと思います。

1.エタノールとメタノール

 学生時代に理科や科学の授業で教わったと思いますが、アルコールにも大きく分けると二種類のものが存在します。
 一つはエタノール。これはエチルアルコールで、「消毒用アルコール」「消エタ」と呼ばれています。一定濃度でウイルスや細菌を殺傷できる能力があることから、今回の新型コロナウイルス騒動では店頭から消えて無くなってしまい、普段から医療ケアが必要とされている方に届かなくなってしまいました。
 消毒に使えるのは60%から95%の濃度のエタノールです。濃度が95%以上ある無水エタノールというものがありますが、こちらは濃度が高すぎで薄めないと消毒効果がありませんので気をつけてください。
 もう一つはメタノール。これは工業用アルコールで、アルコールランプなどの燃料用として使われるものです。人体に使うのは危険です。戦後、アルコールの無かった時期にこのメタノールを飲んで失明や亡くなった方もたくさんいたそうで、呑むと目が散るアルコール、つまりメチルアルコールと覚えろと筆者は教わりました。

2.次亜塩素酸ナトリウム液と次亜塩素酸水

 同じような名前なのですが、効果は全く異なります。
 次亜塩素酸ナトリウムは、ハイターなどの塩素系漂白剤を希釈すると作ることができ、主に食器やドアノブ、テーブルやいすといった「物の消毒」に使います。
 強アルカリ性ですので、手指の消毒など人体に直接使用することは厳禁です。また、霧吹きやスプレーで空気中に散布することも止めてください。
 次亜塩素酸水は塩化ナトリウム水溶液を電気分解したりして得られるもので、基本的な用途は次亜塩素酸ナトリウムと同じく「物の消毒」に使うようにしてください。
 次亜塩素酸ナトリウムと比較すると使用期限や濃度など気をつけないといけないことがかなり多いです。時間による劣化が早いこと、有機物や紫外線によって分解されてしまうこと等、取り扱いには気をつける必要があります。
 いろいろと騒動になっているのですが、製品評価技術基盤機構、通称(NITE)の試験結果では次亜塩素酸水での殺菌はかなり量が必要だということでしたので、空気中に散布することは止めた方が無難かなと、筆者は考えています。
 ともあれ、この二つは名前はよく似ていますが作り方や性質はかなり異なるので混同しないようにしてください。
 ちなみに次亜塩素酸ナトリウムはアルカリ性、次亜塩素酸水は酸性です。

 消毒液にはいろいろとあっていずれも一長一短があります。
 手の消毒で一番確実なのは流水を使って石けんでしっかりと手洗いすることみたいですが、消毒液を手配するときには事故が起きないように、消毒の目的にあった消毒液を準備すること、そしてまぎらわしいものがあるので充分気をつけてください。

【参考資料】
新型コロナウイルスに対する消毒方法の有効性評価について最終報告をとりまとめました。~物品への消毒に活用できます~(製品評価技術基盤機構のウェブサイトへ飛びます)