善意と悪意

 大災害が起きると、発生後すぐに金品や物品の寄附をしようとする人がいますが、その行為、少しだけ待って下さい。
 現地の状態がわからないのに金品の寄附の受付を始めるところは、本当にその寄付金が現地に届くかどうか、しっかりと調べることが必要です。
 いろいろと言われていますが、日本赤十字社は赤十字社という全世界に繋がるネットワークがありますし、会計報告もきちんとされています。
 もしも寄附をするのであれば、ここを基準にしてどのような寄附の使い道があってどれくらい明朗会計なのかを確認しても遅くはありません。
 どのみち寄附したお金がすぐに現地に届くわけではないですから、一呼吸おいて、状況がはっきりしてからの寄附でも充分間に合います。
 せっかくの善意を、悪意ある人に利用されないようにしてください。
 それから、物品の寄附もできれば止めてください。
 物品の寄附をしてもよい人は、現地に直接持ち込めて受取人が明確である場合だけです。ただ、災害発生後すぐに物資を持ち込もうとするのは、現地への災害救助派遣や救助活動の邪魔になりかねませんので、持ち込むのであれば他の活動の邪魔にならないようにご配慮願います。
 そして、物品を送る人が忘れがちですが、災害が発生してダメージを受けているのは物流も一緒です。善意でものを送りつけようとすると、ダメージを受けている物流にさらなる負荷をかけてしまって、結局届いた頃には必要ない状態になっていたりすることが殆どです。
 ちなみに、災害後の個人からの任意の救援物資でかなり困るものが、生鮮食料品と古着です。物流がダメージを受けている以上、平時と同じように物品が届くなどと考えないで下さい。流通の回復には時間がかかりますので、生鮮食料品を送っても、100%腐ってゴミになってしまいます。
 また、不要な古着を送るのも絶対に駄目。あなたが着ないものは他の人も着ません。送るのならば新品のものを、できるだけ箱単位で送って下さい。
 送りつけられた古着は、ほぼ100%現地で焼却処分となっていて、そうでなくても負荷のかかっている現地のゴミ処理にさらなる負荷をかけてしまいます。
 マスコミの報道やSNSなどで「○○が足りない!」と発信されることはよくありますが、その後その○○が山のように届いて処分に困る状況になることはよくあります。
 物資の調達は現地からでもできますから、慌てず騒がず、せっかくの善意を無駄にすることの無い方法で届けてください。
 最近ではAmazonやヤフー、楽天などで現地の必要としているものと提供する人のマッチングサイトも災害時には運営されるようになってきています。
 そういったところを利用して、いるものをいるぶんだけ必要な場所に届くようにしたいですね。
 せっかくの善意が現地にとって悪意にならないように、金品や物品を送るときには、しっかりと配慮して欲しいなと思います。

参考:支援物資等を提供する(NPO法人レスキューストックヤードのウェブサイトへ移動します)

地震のときに動けないところ

 夕べは日向灘で大きな地震がありました。
 午前1時過ぎという時間でしたので、多くの人は寝ていたのでは無いかと思いますが、お怪我などはなかったでしょうか。
 地震のときにすぐ動けない3つとして、1.寝てるとき、2.トイレ中、3.入浴中があります。
 いずれも気がついたからといってすぐに動きを取ることは難しいと思いますので、とりあえずは怪我をしないようにしておく必要があります。
 上からものが落ちてきたり、ものが飛んできたりしないように、家具やものの配置には気をつけて下さい。
 もし布団の中の場合には、お布団や枕を頭から被って怪我をしないようにしてください。
 お風呂とトイレの場合には、閉じ込められたりすることを防ぐために出入り口を解放しておく必要があります。
 見られると情けない姿にはなりますが、閉じ込められるよりはマシ。出入り口の開放をしたら、怪我をしないような姿勢を取って下さい。
 ちょっとしたことなのですが、これらを知っておくだけでも動きが変わってきます。
 「今、そこで地震が起きたらどうしよう」を、ちょっとだけ考えて、自分の行動を決めておきたいですね。

とりあえず使ってみる

市販品の非常用持ち出し袋セット

 非常用持ち出し袋や防災ポーチ、備蓄品など、さまざまな防災グッズを準備していると思いますが、それらのグッズをどのように使うのか、実際に使ってみたことがありますか。
 一般的に防災備蓄品は値段が高いせいか、一度準備してもそれをもったいなくて使えないという人が多いようですが、実際に使ってみないと、その品物があなたにあっているのかどうかがわかりませんので、お試しで必ず一度は使ってみてください。
 防災本や講演会など、さまざまなところで推奨されているアイテムでも、実際に使ってみるとあなたが使うには向いていないという場合があります。
 また、求めている機能と実際の機能が異なることもよくあります。
 身近なところでは、携帯トイレがあります。
 さまざまな防災アイテムの紹介では、この携帯トイレを常備するというのがほぼ必ず書かれているのですが、この携帯トイレには大小用と小用があるということを説明しているものは殆どありません。
 百円均一ショップで売っている携帯トイレの表記でも「男女兼用」ということの他に「大小用」なのか、「小用」なのかを確認しておかないと、いざというときに非常に困ることになります。
 また、小用を使おうとすると、女性の場合にはそのときの服装によっては非常に使うのに苦労する場合もありますので、実際に使ってみることは必須です。
 他にもさまざまなアイテムがあって、それぞれに特徴がありますので、専門家が紹介していたからと言って買ったものをそのままにしておくのではなく、それがあなたにあっているのか、必要なのかを実際に使って試して見て下さい。
 実際に使ってみると、「こんなはずでは?」ということがよくあります。非常用持ち出し袋や防災ポーチ、備蓄品はその積み重ねで作っていくものです。
 せっかく準備するのですから、使いやすいものを準備しておくようにしてくださいね。

アレルギー対策を整えておく

 災害が発生して避難所に長期滞在する必要が出てくると、さまざまな問題が出てきます。
 見た目や動きなどで分かる問題なら良いのですが、内臓疾患やアレルギーのある人は、ぱっと見何が問題なのかわからないために健常者とトラブルになりがちなので気をつけなければいけません。
 特に食事制限や食べものからのアレルゲンの摂取を控えるという行動は、行政などからの配給食のとき、お残しや食事をしないという選択肢になることもあって、見る人によっては「何の不満がある」と文句を言われてしまうこともあります。
 そして、避難所で配られる食料品ではアレルギーや食事制限に配慮されたものが出る可能性はまずありませんので、そういう人は自分であらかじめ食事を準備しておく必要があります。
 現在は3日から1週間程度は自分の備蓄を用意するように言われていますが、アレルギー体質の人は、それ以上に準備しておくようにしてください。
また、最悪に備えて何が食べられて何が食べられないのか、どれ位摂取してもいいのかは、あらかじめ平時に試しておいたほうが安全です。
 それから、万が一に備えて抗アレルギー薬は常に携帯しておくようにしてください。
 非常用持ち出し袋に入れておいてもいいのですが、いざというときにそれを常に持ち出せる環境にいるとも限りません。
 普段必ず持ち歩くカバンや財布などに、最低1回分は入れて持ち歩くようにして下さい。
 アレルギーは未だにたいしたことが無いと考える方がいますので、アレルギー持ちの人は、自衛手段をしっかりと確立しておいた方が無難です。
 せっかく災害から助かったのに、食べ物のアレルギーで倒れてしまっては何にもなりません。
 悲しいことですが、自分の身は自分で守るを基本にして備えるようにして下さい。

災害訓練とゴミ

 災害対応訓練を一般の方向けに実施すると、結構な割合で炊き出し訓練がくっついています。
 その時には、基本的に使い捨て容器が使われるわけですが、この処分の方法が可燃物も不燃物も容器包装プラスチックもごっちゃになっていることが非常に多くて、ちょっと首を傾げてしまいます。
 確かにゴミの処理というのは大変ですし手間もかかり、燃やせるものは燃やしてしまえという考え方もわかります。
 ですが被災後のゴミは、そうでなくても膨大で多岐に渡るものが出ますから、分別できるものはできるだけ分別しておく必要があるのではないでしょうか。
 水を大量に使うことができないからといって発泡プラ容器で食事を提供し、そのまま燃えるゴミというのはよくある例ですが、そこまでリアルさを追求するのであれば、食器にビニール袋やラップなどを掛け、それらを使うことで食事後のゴミを減らすところまでしてもよいのではないかと思っています。
 訓練以上のことをできる人は殆ど居ませんから、訓練の時にこそ、ゴミをなるべく出さない、ゴミを減らすような練習もしておくといいと思います。
昨今は新型コロナウイルス感染症関係であまり炊き出し訓練はされていないようですが、もしされることがあるのであれば、ゴミの省力化まで考えて訓練することをお勧めします。

常識と非常識の狭間

 被災後の被災地での生活では、それまで常識だと信じていたことが非常識になることがたくさんあります。
 なかでも、性に関する問題は常識と非常識がぐちゃぐちゃになって、現地の当事者になってしまうと何が本当なのかさっぱりわからなくなってしまいます。
 例えば、普段の生活の中で女性が着替えをしているところを覗くと、明らかに犯罪です。
 ところが被災地の避難所でそういったことが起きてしまっても、覗いた方では無く覗かれた方が悪いことになってしまったりします。
 同じように、寝ている女性の布団に近所のおっさんが入ってきたとします。
 普段から間違いなく犯罪ですが、被災地の避難所では「それくらい我慢しろ」と言われてしまったりします。
 その避難所の男性陣からそう言われるだけではなく、女性陣からも同じような発言があったりすると、いったい何を信じて良いのかわからなくなってしまうでしょう。
 こうやって考えてみると、常識と非常識というのはその場に居る人や雰囲気、状況によっていかようにでも変化するものであり、常識などは人の数だけ存在するのでは無いかと考えることもできそうです。
 大規模災害が起きると、被災地は必ず治安が悪くなります。日本人は規律正しいと言われますが、全ての人がそうではありませんし、悪さをするやつはします。そして、災害という事態で自制心が飛んでしまった人にとっては、平時においては犯罪となる行為をやってしまうことに罪の意識はありません。
 ではどうすればいいか。
 残念ながら、同性同世代で自衛するしか手がありません。決して単独行動は取らない。避難所でも寝ずの番を複数立てるなど、犯罪に遭わないような対策を取るしか手が無いのです。非常時には、平時の常識は通用しないと思って下さい。
 自分達の身は自分たちで守るしか無い。
 「自決主義」というと言い過ぎかもしれませんが、犯罪を犯そうとしたものは自らの手で始末する。それくらいの覚悟がいるのではないでしょうか。
 一番良いのは、常識が非常識にならないような災害後の治安維持ができればいいのですが・・・。

阪神淡路大震災を知っていますか?

1995年1月17日午前5時46分。兵庫県の淡路島から神戸市にかけて発生した大きな都市直下型の地震でした。
太平洋戦争の後、高度成長期における日本ではさほど大きな地震に見舞われることが無く、ある意味で地震の怖さを忘れていたとき、この地震は起こりました。
結果として震災関連死を含む死者6,343名という、それまでの地震ではありえないような数の犠牲者を出すことになってしまいました。
この地震の影響は大小さまざまなところへ波及していきますが、災害支援ボランティアがあちこちで活躍したのもこの災害がきっかけとなっています。
この災害には、筆者の知り合いもたくさん巻き込まれました。
幸いにして多くの知り合いは無事でしたが、その知り合いにどのような手助けができるのかを、真剣に悩んだ記憶があります。
結局出かけても手伝えることは無く邪魔になるだけと言うことで、何もできなかったのですが、何もできないのかというその時の葛藤が、現在の防災研究所を立ち上げる遠因の一部になっています。
既に25年が過ぎて、「覚えていますか」から「知っていますか」と言った方がいい感じになってきましたが、その時に何が起きたのかについては決して風化させて良いものではないと思います。
被災当事者であっても、時間が経てばその時どうだったのかは記憶の彼方になってしまいます。
でも、いろいろな現在の災害対策が起こるきっかけとなったあの震災は、できうる限り語り継いでいって欲しいと思っています。

災害対策って誰の仕事?

 防災という話が出てくると、決まって出てくるのが「防災とは誰がやるべき仕事なのか」という押し問答です。
 最近でこそ「自助」「共助」「公助」の話が普通に出てくるようになってきて、個人ですべき備え、地域ですべき備え、そして行政機関などがすべき備えの仕分けができつつありますが、それでも未だに災害対策は国や県、市町村の仕事という認識の方が大勢いらっしゃいます。
 「住民の命を守るのは行政の仕事であって、そのために高い税金を払っている」と言われる方もそれなりにいらっしゃって、なかなか自分自身の命を守るのが自分であるという基本的なことがご理解いただけないこともあり、説明に悩むこともあったりはしますが、どうしてこんなことになっているのでしょうか。
 「昔から避難所の状況は変わっていない」とか、「なぜ行政はいつも後手に回るのか」というご意見もあります。
 では、それらの意見を言われる方は状況を改善するために何か行動をされているのかというと、せいぜい行政の担当者に文句を言いに行く程度で、例えば避難所整備のための寄附をするとか、できるかぎり行政担当者がスムーズな仕事ができるように協力するとかいった建設的な行動はしていないような気がしています。
 話が少しずれましたが、こういったご意見が出てくるのは、災害対策は誰の仕事か、という根本的な整理ができていないからではないかと思うのです。
 答えを先に書いてしまうと、災害対策は誰の仕事でもなく、そして全ての人の仕事だという不思議な回答になります。
 自分自身や家族の命を守るための備えはそれぞれがしなければ誰もやってはくれませんし、地域で災害の被害の軽減を図るためには、行政機関による公共投資がどうしても必要になってきます。ただ、自分には関係ないと思い出すと、それは誰の仕事でもないものになってしまいます。
 本来、企業や学校、組織ではそれぞれの構成員を守るためのBCPがないと困りますし、経営者は普段から「いざというときには」という視点で経営計画を作る必要があります。では、普段の活動でそういったことを意識しながら行動をしているかというと、多くの人は疑問符がつくのではないでしょうか。
 本来、災害対策と無縁な人は恐らく一人も存在しませんし、災害対策とは自分の仕事なのですが、意識しなければ意識しないで災害が起きるまでは何の支障も無く生活できてしまうので、「自分以外の誰かがやる活動」と思うようになってしまうのです。
 「災害対策は我がこと」ということがわからなければ、いくら災害対策の話や研修会をやったとしても「いい話を聞いた」で終わってしまいます。
「災害対策は自分事」
 そう考えるところから災害対策を初めませんか。

【お知らせ】シニア災害ボランティアシンポジウムが開催されます。

1月から3月は防災関係の研修がなぜか多くなるのですが、シニア災害ボランティアシンポジウムがオンラインにて開催されることになったそうです。
内容は、
①「令和における災害ボランティアの在り方」として、講師は大阪大学の渥美 公秀 教授が、
②「災害時での情報活用に求められるもの」として、講師は京都大学の畑山満則 教授が、
それぞれ講演されたものを視聴することができます。
配信期間は、令和4年1月21日(金)から2月3日(木)で、参加申し込みが必要です。
手続きなど詳細につきましては、以下のリンク先をご確認下さい。

「シニア災害ボランティアシンポジウムが開催されます」(島根いきいき広場のウェブサイトへ移動します)

感染症の感染者数を考えてみる

 新型コロナウイルス感染症のオミクロン株が急速拡大しているようです。
 ようです、と書いたのは、普通の風邪も流行っているのと、PMや花粉が原因のアレルギー症も始まっていてどれがどれだかわからない状態になっているため。
 早めの終息を祈るところですが、新型コロナウイルス感染症では人流抑制、つまり人の移動を制限して感染を抑え込もうというのが基本的な対策になっています。
 では、もし制限しなければどうなるのかを極めて大雑把に考えてみました。
 計算方法は倍々ゲーム。一人の人が一日に一人、感染させると計算しています。
 初日は1人が一人に感染させたので、感染者は2人になります。2日目は4人。3日目は8人。
 1週間、7日目では128名となります。たいしたことないなと感じますが、ここからが問題になります。
 8日目は256名、9日目は512名、10日目で1,048名。15日目で33,536名で20日目に1,073,152となり、100万人を超えます。
 28日目には274,726,912名となって、日本の人口を超えてしまいます。
 実際にはこんなことにはなりませんが、最初の一人が一か月も経たないうちに2億人を超えるというのですから考えたら怖い話です。
 では、人流抑制をするとどうなるのか。
 当たり前のことですが、感染している人をそこから動かさずに人との接触を絶たせてしまえば、基本的に感染させることはありません。
 ロックダウンといわれる都市封鎖などは、それを狙って行われているわけですが、実際には物流も止めない限りは完全な隔離はむつかしいでしょう。
 また、ロックダウンを行うと同時に、感染していない地域では、感染が始まる前に、ウイルスが入ってきても大丈夫なような予防対策を徹底しておく必要があります。
 この二つができて、初めて感染症の抑え込みが可能になるわけです。
 ちなみに、日本の感染症対策では感染源を特定してそこから発生している可能性のある人を追跡し、感染者を抑え込むという方法をとっています。
 感染者数が少なくて保健所などの行政機関が対象者を追い切れ、感染した可能性のある人すべての協力が得られる状態であれば、これは極めて有効な手なのですが、現在のオミクロン株の場合、これだけ蔓延してしまうとどこで感染したのかは正直に言ってわからないと思います。
 感染を防ごうと思ったら、当たり前ですが自分で自分の身を守るしかありません。
 具体的には、ウイルスを体内に入れないようにすること。
 不要不急の人との接触はさける、マスクは常時着用し、もし外出したなら帰宅後にはマスクを交換する、流水を使ったしっかりとした手洗い。
 自分の衛生環境のレベルを上げることで感染するリスクを下げること。
 どれだけ努力してもリスクを0にすることはできませんが、できる範囲のことはやっておくことで、あなたと周りの人の感染リスクを下げることができます。
 倍々ゲームにならないように気を付けたいものですね。