災害対策はまず自分のことから

市販品の非常用持ち出し袋セット

 災害対策の講習会というと、よくあるのが地域を対象とした救助訓練や炊き出し訓練、避難訓練などです。
 これはきちんとやれば効果が出るものですが、訓練のための訓練をしていてはあまり意味を成しません。
 元々の災害対策は、まずは自分が生き残るために行うものですから、まずは自分の備えをきちんとしておく必要があります。
 あなたが必要なものと近所の人が必要なものはかなり異なるのが当たり前ですので、まずあなたに何が必要なのかをしっかりと考えて準備して下さい。
 例えば、入れ歯、眼鏡、杖、補聴器、持病の薬などは、もし無くなったとしたら、あなた以外の人のものを転用するわけにはいかないものが殆どです。
 食物アレルギーを持っている人なら、自分が食べられる非常食の用意も必要ですし、抗アレルギー薬も準備しておく必要があります。
 そういったものを優先的に予備を準備していくことで、自分に対する備えができてくるのです。
 共助も公助も、たくさんの避難者をとりあえず助けるために準備されているものですから、個人として必要とされるようなものはまず配給されないと思って下さい。
 防災の専門家や書籍に書いてあることはあくまでも参考例です。
 あなたは、まずあなたに必要とされる対策をあなたのために準備するところから始めてほしいと思います。

足湯と手浴

 大規模災害で被災すると、さまざまな原因から被災した人は精神的に緊張した生活を送ることになってしまうことが多いです。
 精神的に緊張すると、身体も緊張してしまい、気がついたら寝不足や体調不良が身体や心に出てきますから、できる範囲でも緊張をほぐす時間が必要になります。
 日本人の特性なのかどうかはわかりませんが、大きなお風呂にゆっくりと入るとかなりリラックスできる人が多いのですが、大規模災害後には水や燃料、設備の不足や衛生面の問題などから、なかなかそういったことは難しいようです。
 その代わりに、足湯や手浴をしてみてはどうでしょうか。
 バケツや洗面器にお湯を入れて手や足をつけるだけなので、誰でもできますし難しい技術も必要ありません。
 そして、身体全体が暖まって緊張をほぐすことから、安眠やこころの緊張の緩和効果も期待できます。
 被災地への支援では、ボランティアによる足湯や手浴が行われることもあり、マッサージが追加されていることもあってか、非常に評価は高いようです。
 大規模災害もある程度落ち着いてくるとお湯は手に入りやすくなると思いますので、被災者の緊張緩和の方法の一つとして避難所運営やボランティア支援に入る人には知っておいてほしいと思います。

低体温症に気をつけよう

 登山や屋外での運動をやっている人は割とよくご存じだと思いますが、低体温症には季節は関係ありません。
 夏であっても、身体から熱が奪われてしまって低体温症にかかってしまい危険な状況になることがあります。
 低体温症は本人が気づいたときには一人では手の打ちようが無い状態になっていることが多いので、意識して低体温症にならないように気をつけておく必要があります。
 では、低体温症はどうやって起きるのでしょうか。
 低体温症は、身体が作る熱が何らかの原因で奪われてしまい、熱を作ることができなくなる状態を指します。
 例えば、夏にはやる方がそれなりにいる沢登りですが、水の冷たい上流部で水に浸かり続けていると感覚がなくなり、震えがきます。これは低体温症の予兆で、そのうちに手足の指の動きが鈍くなったり、肌の感覚がマヒしたりしてきます。
 その後は全身の動きが鈍くなったり、転んだり。意識がはっきりしなくなると危険な兆候です。
 最終的には寒いという感覚がなくなって眠くなって絶命してしまうので、そうなる前に手を打ちましょう。
 基本は,身体を乾燥させて保温することです。
 保温といっても、意識が混濁しているような状態のときには、かなり体温が下がっていますので、ストーブや湯たんぽなどでいきなり温めると心臓マヒを起こすことがありますので、ゆっくりと温めていくしか手がありません。
 で、この低体温症、大雪の最中に屋外作業をしたり除雪しているときにも起こります。雪に埋もれると一気に低体温症になりますし、除雪などで汗をかいたあと寒風に吹かれれば同じように一気に低体温症になります。
 とにかく小まめに休憩をとって身体を冷やさないこと。そして雪や汗で身体が濡れたら、すぐに拭き取って乾いた衣服に着替えることを基本に行動をしてください。
 低体温症は条件さえ揃えばどんなところでも起こり得るものです。
 そのことを忘れずに、どうぞご安全にお過ごし下さい。

避難所の鍵

避難所としてよく使われる体育館。ここは誰が鍵を開けるのでしょうか?

 小さな自治会の避難所であれば、避難所の鍵がどこにあるのかというのは皆さんご存じだと思います。
 災害対策や施設の利活用に熱心なところであれば、鍵の貸し出しや保管方法のルールも定められているのではないでしょうか。
 地域で災害が起きそうなとき、その地域の人が誰でも避難所の扉の鍵を開けることができているのは、避難所の基本です。
 では、大規模な避難所はどうかというと、大規模な避難所では、殆どが施設管理者しか鍵を持っていません。
 施設が開いている時間に避難所になるのなら問題ありませんが、施設が閉まっているときに避難所を開設しようとしても、鍵が無いので避難所には入れないということになります。
 そのため、学校や大きな施設などは、災害時には施設は解放せず、災害が収まってから避難所として解放するというところもあるようです。
 施設の鍵が複数あることは、防犯上好ましいことではありませんし、平時にその鍵を使ってトラブルが起きることは、施設管理者としては認めることができないことだと思いますから仕方がないことなのですが、避難してくる人から見ると施設側の都合はどうでもよくて、避難してきたのに避難所は鍵がかかっていて入れないという事実だけが残ります。
 かといって避難してきた人が鍵を壊して勝手に入ってしまうと、これは不法侵入になってまた別の騒ぎになってしまいます。
 本来は避難所の開設の一番最初の手順である鍵の問題は平時に取り扱いを決めておかないといけないのですが、災害が来ると騒がれている地域でも、それが完全にできているわけではないようです。
 あなたが避難することのできる避難所の鍵は誰がいつ、どうやって開けられるのか、避難訓練などのときにでも確認しておいた方がよさそうです。

必要なものと代替品

災害対策の物品でよく出てくるのが「○○の代替品として」というものです。
「○○があるとこんなものが作れますよ」といった内容なのですが、正直なところ、「必要なものはきちんと準備しておけ」と声を大にして言いたいところです。
被災して手元にまともなものが無い状態といった事態に備えてということなのでしょうが、最初からものが無い前提で代用品を考えるのは本末転倒。
まずはその目的に応じたアイテムをきちんと用意しておくことが重要です。
災害時にはさまざまなものが不足します。よく出てくるのがおむつなのですが、紙おむつの代替品としてよく出てくるのがビニール袋とタオルを使った袋おむつです。
ビニール袋は水を漏らしませんが、足やお腹の結び目から漏れ出すのでそれを防ぐためにかなりきつく結ぶことになります。
すると、出したおしっこはそのまま代用品おむつの中に閉じ込められ、蒸れて非常に不快です。
布おむつに慣れている人なら手早く交換して赤ちゃんの下半身の乾燥状態を維持できますが、紙おむつに慣れている人だと、濡れたら交換しないといけないということが理解できていない人もいると聞きます。
そんな状態になったら、赤ちゃんは泣き止みませんし肌もかぶれたりして後が大変です。
それなら、普段持ち歩くカバンにおむつカバーを一つ入れておけばそこまで困らなくても済みますし、紙おむつの予備を持ち歩ければ、そもそも悩まなくてもいい話です。
何も無い状態に備えて代替品の作り方を知っておくことは大切ですが、それを前提にして何も準備しないという考え方は困ります。
代替品はあくまでも非常時の非常用であり、可能な限りその目的に適切な道具を準備した方がストレスがかかりません。
できる限りその目的に応じたアイテムを準備しておいてくださいね。
ちなみに、代替品を準備するときの考え方は「それは何を目的にしているのか」です。
さっきのおむつの話では、赤ちゃんがおしっこやうんちをしたときに親や周りに被害が及ばないようにするのが目的ですので、考え方によってはおむつをつけないと言う選択肢もあります。
難しく考えずに、もしもアイテムがなければ、そのときに「どうやったらその目的が達成できるのか」を考えて代替品を準備すれば失敗はあまりないと思います。
変にとらわれず、柔軟に考えたいものですね。

視線を遮るものを用意する

小学校の防災クラブで試して見た視線を遮るための場所づくり。思ったよりいろいろなアイデアがでる。

 避難所に避難すると、ある程度落ち着くまでは基本的にプライバシーはないと考えた方が良さそうです。
 最近でこそ気の利いた避難所であれば授乳室やおむつ交換場所、着替え場所などを準備するようになってきてはいますが、多くの避難所は場所の提供だけという考え方ですので、広いスペースにあちこちでごろ寝というのが現在の日本の避難所のスタイルなので、授乳や着替えなど、他人に見られたくないと感じる行為をする可能性があるならば、視線を遮る道具を準備しておくようにしてください。
 例えば、自立型テントがあればプライベート空間を簡単に作り出すことができるので非常に便利です。
 ただ、避難所はすし詰めになることが多く,テントが建てられない場合も多々あります。
 そういった事態に備えて、大きめのバスタオルやエマージェンシーシート、レジャーシートなど物理的に視線を遮ることのできるものを用意しておくようにしてください。
 退屈になると、動きのあるものを無意識に目で追ってしまいがちです。
 そうすると、見ている側は意識していなくても、見られている側は落ち着かないものです。
避難所にそういった道具を備蓄するのは現実的ではないので、とりあえず自衛のために、自分の非常用持ち出し袋にはそういった道具を入れておくことをお勧めします。

かまどは使ってみよう

 個人装備に限らず、地域の避難所に準備してある各種資材は使いこなせて初めて役に立つものです。
 地方の避難所には、結構な確率で簡易かまどが備えられているのですが、このかまどはいざというときに使うことができるかと考えてみると、結構怪しいところが多いような気がしています。
 というのも、保管しているかまどは新品まっさらというものが多く,かまどはあっても薪がないとか、上に載せる鍋がないなど、せっかく備えているのに何か足りないという状態になっていることが多いからです。
 そして、この手の簡易かまどは配置の仕方によっては火がかまどの口から噴き出してきたりすることもあります。
 実際に一度は使ってみないと、癖や置き場所がわからないのではないかと考えます。
 避難所の資材は、劣化したらすぐに更新というわけにはいかないようですが、地域のイベントなどに使用することでみんながそのかまどを使えるようにしておくと、何かあったときにも困らないと思います。
 余談ですが、最近はたばこを吸う人が少なくなり、台所のコンロも電化になっているところが増えてきました。
 備蓄するついでに、火をつける道具も準備しておいた方がよさそうです。
 当研究所で実際に使ってみたかまどの口からの火の噴き出しについて映像を撮ってみたので、お時間があれば見てみてください。

情報入手方法は多重化しておく

 あなたは地域で起きる災害情報の入手をどのようにしていますか。
 テレビ、ラジオを初め、地域の防災無線や防災メールなど、さまざまな手段をお持ちだと思います。
 災害時には、普段以上に正確な情報が必要となります。
 そして、正確な情報の入手手段は、平時から整えておかないとデマやウソに振り回されてしまうことになりますので注意が必要です。
 お勧めはお住まいの市町村や都道府県が発表している防災メールに登録しておくこと。なかにはお住まいの地域の指定ができるものもあるようですので、割と細かく情報が届けられます。
 防災無線は、電池交換や充電装置などの整備をきちんとしていればある程度使えますが、地震などで大規模な被害を受けた場合には、無線そのものが稼働しなくなる危険性があります。
 また、SNSなどでは憶測に基づいた未確認情報が飛び交いますので、信頼できる知り合いや公共機関の情報に限定して収集した方が惑わされずに済みます。
 他には、他の地域に住んでいる人とお互いに住んでいる地域の防災メールを登録し、何かあったら電話連絡してもらう方法もあります。
 「逃げなきゃコール」と言われているものですが、当事者ではない人から連絡を受けることで、情報の受信漏れを防ぎ、安否確認を取ってもらうこともできますので、情報収集に自信のない人はどなたかに頼んでおくといいと思います。
 最後に、災害後には人の憶測という悲喜こもごもの感情がこもった情報がたくさん発信されます。これはSNSに限らず、マスコミなどでも同じ。
 発信されている情報から感情を省いた客観的事実を読み取れるようになっておくと、普段から騙されなくて済むと思いますので、そういった練習をしてみてもよいのではないかと思います。
 いずれにしても、情報があなたの手元に届くかどうかはあなたの意識次第です。
 普段から正確な情報が手に入るような環境作りをしておきたいですね。

アルファ米の分量

 防災訓練などに参加するともらうことが多いものの一つにアルファ米があります。
 軽量で場所をとらず、保存期間も長いアルファ米は施設や学校、公共機関などたくさんの人を対象としたところでは非常に重宝します。ただ、保存期間はそのうちにやってくるので、期限ぎりぎりのものを防災訓練で試食してもらって防災意識を高め、処分するものをできるだけ減らそうということのようです。
 さて、このアルファ米、一般的なサイズだと一袋がどれくらいの量になるか考えたことがありますか。
 一例を挙げると、アルファ食品の安心米【白米】では内容量100g、これは乾燥重量で、出来上がりは270gとなっています。
 一般的なお茶碗でご飯を軽く盛り付けると約150gだそうなので、ざっくりと考えて、一袋でお茶碗2杯弱くらいでしょうか。
 アルファ米は、出来上がりが乾燥重量の2.5~3倍程度になるので、出来上がり量の表示がないときには、これを一つの目安にするといいと思います。
 このことを知っておくと、グループなどに配られたときにどんな感じで消費すればいいのかの目安ができます。
 アルファ米の個包装は一人一つで配られることが多いのですが、上手に作らないと生ゴミになってしまいますので、自分が普段食べる量を考えながら適切な量を作るようにするといいと思います。
 ちなみに、この計算はおかずがある場合の計算になりますので、おかずがない場合には、一人一袋食べないと身体が持たないと思います。
 同じ白米でも、メーカーによって味が異なるので、平時に食べ比べして好みの味を見つけてストックしておくと、いざというときにも安心だと思います。

「災害」の優先順位

 あなたは何か災害への備えや対策を取っていますか。
 こう聞かれると、できる備えを殆どやっている人からまったくやっていない人まで、さまざまな回答があると思います。
 では、今日トイレに行かなかった人と聞かれて、行っていないと答えられる方はどれくらいいるでしょうか。
 恐らくは何かの事情がある方でない限り、100%行っているという回答になると思います。
 災害とトイレが必要な自然現象(以下自然現象と書きます)、どちらも必ず起きるものなのですが、方やバラバラで方や100%。これは何が違うのでしょう。
 これは優先度の問題だと思います。
 自然現象は、これは数時間単位の話です。長くても一日我慢できる人はまずいないと思いますから、自然現象に対応するためにいろんな場所にトイレを作っています。
 でも、災害は数年、数十年、へたすると数百年の単位です。
 どうかすると自分が生きている間には何も起きないかもしれない。そう考えると、備える必要があるのかどうか迷ってしまうと思います。
 そして、基本的に迷ったときには行動しないという選択をする人が殆どです。
 結果として、災害が起きて「こんなはずではなかった」と後悔することになります。
 災害への備えや対策は、一度にいろいろとやろうとするとさまざまなところに弊害が起きますが、ちょっとずつでもやっておくとあなたの安全度は確実に上がります。
 トイレと同じように準備することは難しいかもしれませんが、災害への備えは何か起きたときのあなたの命を守り、繋いでくれる重要なものです。
 「起きるかどうかわからない」からしない、のではなく、「起きるかどうかわからないから」備える。
 そんな風に考えて欲しいなと思います。