ごはんは復旧指標

 災害後にどれくらいの期間で災害発生前と同じ食事が取れるようになるのかは、結構重要な問題だと思っています。
 電気、水道、ガスなどのインフラが復旧し、自分でいつでも思ったように調理ができる環境になり、自分が思ったような食事時間に食事ができるという状態になるまでには、災害の規模が大きくなればなるほど時間がかかります。
 やらないといけないことはてんこ盛り。そして未来の様子はイメージできず、不安だけが募っていく状態は、精神的に決していい状態ではありません。
 気力がなくなると、復旧作業にも手間取るようになりますし、どうかすると絶望感に満ち溢れてしまう危険も予測されます。
 そうならないように、できるだけ早く、少なくともごはんに関してはいつもの食事に近づけるようにしてみましょう。
 例えば、冷たいお弁当を暖めてみるとか、食べにくいおにぎりをお茶碗に入れ、お湯を注いでお茶漬けにするだけでも、それまでの食事よりはマシになります。
 そして、不思議なことに食事の内容が災害前に近づけば近づくほど、あなた自身の復旧は進んでいます。
 中には普段の食事よりも避難所の食事のほうがいいという人がいるかもしれませんが、冷たいお弁当よりも温かいお弁当、暖かいお弁当よりも炊飯器等で炊いたご飯。そしておかず。
 災害前に食べていたようなごはんを食べることができるようになってくると、少なくとも自分の周りの復旧は進んでいます。
 自分の災害復旧で迷うことがある時には、自分の食事を見てみてください。そうすれば、自分がどこまで復旧しているのかの一つの目安になると思います。

どんなときに避難がいるのかを知っておく

 災害発生時にお住いの地区に対して避難を呼びかけられることがありますが、この避難の呼びかけはその地区に住んでいるすべての人に対して避難しろと言っているわけではないことをご存じですか。
 市町村が発表する避難レベルは多くは地区単位で発表されるので、安全なところも危険なところもごっちゃになって避難を呼びかけられることになります。
 もしも対象地区の人が全員避難所に避難するとしたら、中に入れない人がかなり出てくるのではないでしょうか。
 実際には「避難指示を出した地区のうち、本当に危ないところに住んでいる人、また危ないと思っている人」が対象となっているので、安全な場所にお住いの場合には、そのままおうちで様子を見ればいいということになります。
 ただ、自分の家が安全かそうでないかを知るためには、きちんとハザードマップを見て住んでいる場所ではどのような問題が起きると予測されていて、どんなときに逃げないといけないのかをしっかりと把握しておきましょう。
 あなたの住んでいる場所に対して、行政は個別に呼びかけたりはしません。あくまでも面としての地域に対しての避難情報の発表となります。
 過去には住んでいる地区に避難指示が出たからと言って、安全なおうちから避難所へ移動中に災害に巻き込まれたりした人もいますので、まずはあなたのおうちの周りの危険から把握するようにしてください。

行政の避難所対策

 研修会などで過去の災害での避難所の写真を参加者にお見せすることがあるのですが、それを見た人の感想というのが「どれがなんだかわからない」というものです。
 もちろん写真の雰囲気である程度の時代はわかるのですが、そこに出てくる風景というのは、それを除けばほとんど変化がないものになります。
 大きな体育館のような場所にござや敷物が敷かれていて、不安そうな顔の避難者が無秩序にプライバシーのない状態で過ごしているという状態。
 もしもお時間があるようでしたら、インターネットで検索してみるといろいろ出てくると思いますので見てみてほしいのですが、これだけ災害の多い国なのにもかかわらず、避難所については何の進歩もないのかなとちょっと悲しくなってきます。
 幸か不幸か、新柄コロナウイルス感染症の流行に伴って避難する最初の時点から空間を仕切るということが行われるようになりました。
 その結果は、避難所の収容人員の大幅な減少ということになり、避難所難民といった言葉が登場したりすることになったのですが、そもそも避難が必要な危険な場所に住んでいる人が相当な数がいるということが、貧弱な避難所の状態の大元になるのかもしれません。
 避難する場所があるだけでもいいというのは確かにそうなのですが、それでも難民キャンプでの最低限人道的な生活を送るための基準、いわゆるスフィア基準を下回るような状態は決してあるべき姿ではないのではないでしょうか。
 現在言われている南海地震・東南海地震が起きた時、どれくらいの人が被災者になって避難所に押しかけてくるのかはわかりませんが、人口が都市部に集中してきている現状を考えると、過去の大災害よりも悲惨な状況になることが予測されます。
 避難所は最後の手段と考えて、被災しないと思われる知り合いなどの家や被災地外の宿泊施設、また、そもそも被災しそうな場所に家を建てないなどして、避難所への避難が選択肢の一番最後になるようにすることと、避難所を細分化すること、そして避難所を設置するためのパーテーションやテント、トイレや生活空間の確保など、個人で準備すると持っていない人とトラブルになりそうな部分については、できるだけ行政が資材を準備しておくこと、そして避難所の運営についてはできる限り地元やボランティアに任せていくこと。
 そのためには、平時にいろいろな準備をしておく必要があるはずなのですが、あなたのお住いの自治体は大丈夫ですか。

知っていること、できること

 災害対策に限りませんが、どんなことでも知っているということとそれができるということはまったく異なるものです。
 防災に関しても、多くの人は頭ではやらないといけないことは理解していると思うのですが、頭で理解しているだけで、いざというときにはまったくできていないということが非常に多いです。
 災害後によく「想定外だった」や「想像していなかった」「予想していなかった」「まだ大丈夫だと思っていた」といったコメントがほぼ必ず毎回出ているのは、頭で理解していると思っていたことができていなかったということの証明になるのではないでしょうか。
 避難訓練や災害対策のあれこれは、わかっているからしなくても大丈夫という方が結構いらっしゃいますが、知っていることとできるということが違うということを理解しておいてほしいと思います。
 頭でわかっているつもりでも、実際にやってみるとさまざまな齟齬が発生するものです。齟齬が出るからこそ、しっかりとした訓練をするわけですし、訓練後の修正点や反省点を確認したり、対策について見直したりすることをしておかなければいけないのです。
 訓練はうそをつきません。
 知っているだけではできませんし、訓練をやっている分だけは、いざというときにも体がしっかりと動くはずです。
 知っていることとできることは全く違うのだということを理解したうえで、防災活動にしっかりと参加していってほしいと思います。

機能を止めない方法を作っておく

どのようなお仕事でも、その仕事が無くなったら困るという方が必ずいるはずです。
特に人にかかわる仕事の場合には、災害でその機能が止まるとさまざまなところに大きな影響が発生しますので、平時に対策をきちんと立てておくようにしてください。
特に保育園やこども園といった小さな子供を預かる施設、高齢者を受け入れるデイサービスなどは、その機能が止まってしまうと家族はその世話をすることになってしまって、おうちの片づけすらできないことになってしまうので、代替策を準備し、災害が発生した時には速やかに代替手段に切り替えるようにして、家族が復旧に専念できるような体制を構築しておく必要があります。
そのためには、保育園やこども園、デイサービスといった施設の職員さんのおうちの災害対策がしっかりとできていなければなりません。
施設のBCPはその施設だけで完結するものではなく、施設にかかわるあらゆる人やもの、組織といったところも含めての対策を作る必要があります。
施設だけではなく、さまざまな企業や組織においても同様です。
自分のところの仕事だけでなく、周囲の人やもの、組織とも連動してBCPを構築することが、地域の素早い復旧のための重要な項目となります。

箱わな、どんなものが来る?

 箱わなはわなの中では取り扱いがしやすく、比較的安全な捕獲道具です。
 そのため、ホームセンターでも小型の箱わなはよく売られているのですが、野生動物を捕獲するのは、原則として有害駆除の許可が必要だということは覚えておいてください。
 ただ、悪さをするから捕獲しようとして箱わなを仕掛けても狙っている動物がかかるとは限りません。多くの場合、関係ない生き物がかかってしまって、箱わなから追い出すのに苦労することになります。
 小型動物用の箱わなだと、よく引っかかるのはネコ。蓋が閉まっているのでしめしめと思ってみたら、不機嫌な猫がいたというのは、小型動物用の箱わなをかけたことのある人なら経験があるのではないでしょうか。また、箱わなを仕掛けるときには、中に誘導するためにエサを撒きますが、下手にこれをすると単なる餌づけになってしまうことがあることも悩ましいところです。


 現在運用しているイノシシ用の箱わなは結構大きなものを使っているのですが、ここひと月ではタヌキ、アナグマ、アライグマ、からす、スズメ、テン、そして野ウサギが来ていて、肝心のイノシシは影も形も見えません。
 狙っている獲物を捕まえるのは相当難しいということと、寄せないように防除をするほうが結果的に簡単なことも多いということを知っておいてほしいなと思います。

中間支援組織の必要性

 災害現場に行くと必ず出会うのが、ボランティアと被災者ニーズのミスマッチです。
 特に行政側の人数が絶対的に減っていることで、被災者ニーズの把握がかなり困難になってきています。
 最近では倒壊危険家屋などで作業ができたり、重機を使ってさまざまな作業をしたり、介護や看護を行う専門ボランティア団体も増えてきて、被災者のさまざまなニーズに対応できるような体制になりつつありますが、受け入れ態勢や支援希望者とのマッチングといった作業が遅々として進まないという現状があります。
 災害後には行政の仕事は莫大な量になるため、被災者支援、特に復旧支援については後回しになり、社会福祉協議会などが設置するボランティアセンターなどにお任せになってしまうことが多いのですが、ボランティアセンターに集まったニーズが、専門ボランティアに共有されるのにはいろいろな壁があるようです。
 この被災者のニーズと専門性を持つ専門ボランティアをうまくマッチングさせ、いち早い復旧を目指すための後方支援をするのが中間支援組織です。
 実際に大規模災害の被災地では行政だけでなく、さまざまな支援団体から構成される復旧支援会議が行われますが、こういった会議の開催や運営の支援を行うのも中間支援組織になります。
 しかし、この中間支援組織はなかなか形が見えにくいもので、平時にどのような運用をすべきなのかについては、現時点では答えがない状態です。
 ただ、平時から構成しておかないと、非常時にいきなり立ち上げてもうまくいきません。
 現在さまざまな団体がこの中間支援組織の具体的な形作りを模索しているところですが、この形は、ひょっとしたら地域によって正解が異なるのかもしれないと思うこともあります。
 これから大災害が起きた時、膨大な被災者と膨大な支援者をつなぐための中間支援組織。平時からさまざまな団体が連携できる場を作り、それをつなげることで大きな輪にできないか。
 現在当研究所が考えている大きな取り組みの一つです。

まずは試してみよう

 災害対策で個人ができることでは、さまざまな人がさまざまなことを言っていて、それらを見ている分には面白いものです。
 誰が言うことにもそれなりの根拠がありますし、それなりに必要だなと思わせるような内容もあります。
 中には「それ絶対無理」というようなとんちんかんなものもありますが、机上ではいろいろなことが考えられますから、それもありなのかなと思います。
 では、どうすればいいのかというと、いろんな人が言っているいろんなことのうち、自分が「そうかもな」と思うことを試してみましょう。
 例えば、災害時のトイレ問題で「おむつをつければいい」というのがあります。大人用おむつもありますし、介護の必要な人もつけていますから、それもありかなと思う人も多いのではないでしょうか。
 もしも「あり」だと思ったら、実際に一度やってみてください。
 正直なところ、筆者は二度とやりたくありません。微妙に濡れた感覚を履いたままというのは耐えられませんでしたし、大きい方など考えたくもありません。
 筆者自身は、その経験のあとは仮設トイレを充実させる方向に舵を切りました。
 でも、人によっては「おむつで問題ない、快適」という人もいるわけで、自分に合うかどうかは試してみないとわからないというのが正解です。
 ただ、災害発生時にぶっつけ本番は止めておきましょう。
 いろいろなことが自分にあっていればいいのですが、合わない場合には最悪の状況を生み出すこともあります。
 人の意見はたくさんあって、中には相互に矛盾したものもたくさんあります。
 どちらが正しい、誤っているというわけではなく、自分にあったものを選んで備えることを考えれば、まずは「試してみる」ことが一番だと思います。
 少しお金はかかるかもしれませんが、発災時、そして発災後の自分の生活環境の質をできるだけ落とさないようにするためにも、どんなものでもまずは試してみてください。

被災後は暇にしない

日本の災害では、被災者の方をお客様にしてしまうことがよくありますが、被災者の方を完全なお客様にするのは止めた方がよさそうです。
というのも、やることがある人はともかく、「被災して大変だから」と何もさせない状況にしてしまうと、人間ロクなことを考えなくなるものです。
特にお年寄りにはこの傾向が強いのではないかと感じていますので、できることをどんどんお願いしていくような体制を早い段階で構築しておくとみんなが幸せになれます。
日中、家や職場の片づけや仕事がある人はそちらに専念してもらって、やることがない人は避難所の運営や地域の仕事にどんどん協力してもらいましょう。
忙しいと、悪いことを考えている暇が無くなりますし、なによりも仕事をやっているという充実感があるものです。
どんな人でも、大抵何かはできます。
避難所の運営者や地域のまとめ役をしている人は、誰がどんな仕事なら、どうやればできるのかについて考えて、どんどん仕事を振り分けていきましょう。
そうすることで、相対的に自分でないとできない仕事だけが手元に残りますし、仕事が回りだすと状況もよくなるものです。
被災後の基本は、できる限り暇な状態にしないこと。
精神的なことが原因の災害関連死を防ぐためにも、意識しておきたいことの一つです。

乳児がいるときは液体ミルクを備えておこう

乳児にとって、災害時だろうがなんだろうが、栄養補給のためには母乳またはミルクをのむことが必要です。
では、乳児のお持ちの親御さんがどれくらい備えているかというと、母乳や粉ミルクは常備していても、液体ミルクを常備しているところはまだまだ少ないようです。
液体ミルクは賞味期限が半年から18か月と、災害食として用意するには期限が短いですし、出しているメーカーも限られていますので、現状では少ないのかなという気がしています。
ただ、災害時にはこの液体ミルクはかなり力強い味方になることを覚えておいてください。
場所がどこだろうが、容器の中には常に完成されたミルクが入っているのですから、調製する必要もなく、そして衛生面でも有利なのは考えなくてもわかると思います。
WHOが出している粉ミルクの調製法では、細菌対策で70度以上のお湯で粉ミルクを作ることが推奨されていますが、被災直後ではそういう温度を作れる材料がないかもしれません。
液体ミルクであれば、人肌程度まで温めればそのまま使えて細菌対策も出来ていますから、汚染を心配する必要は少なくなります。
もっともいいのは母乳なのですが、さまざまな事情から、母乳が使えない場合に備えて、液体ミルクを2~3日分用意しておくといいと思います。
もちろん、事前に乳児に飲ませてみて、好みの味であることは確認しておきましょう。
災害時には、母乳か液体ミルクを乳児に与えるといいということと、粉ミルクは必ず70度以上のお湯で溶かす必要があるということを、知っておいてほしいと思います。

乳児用調製粉乳の安全な調乳、 保存及び取扱いに関するガイドライン (厚生労働省のウェブサイトへ移動します)